時代遅れの小さな村。そいつは初めから何かにおいが違った。
火あぶりの刑なんて、そうそう頻繁にあるわけじゃない。きっとこの女はよっぽどのことをしたんだろう、なんて思いながらぼーっと牢の中を見つめていた。体育座りのまま微動だにしなかったそいつは、僕が飲み干した水筒を床に無造作に置くと、急にふわりと顔をあげた。
――あなた、名前は?
暗くてよく見えなかったが、どうやら微笑んでいるようだった。
ひとしきり、その女と他愛ない話をした。そいつは僕や父さんの話をやけに楽しそうに聞いていた。僕と同い年ぐらいに見えるのに、・・・なんだか僕を上から見ている感じがした。
――火あぶりなんて、何をした?
僕の話が終わった後、唐突にそう聞いてしまった。
――そうね、
ふふ、とその女は小さく自嘲気味に笑った。
――人間が生きていく上で、禁忌とされていること、かな。
翌日の朝。十字に組まれた木の上に、そいつの体が張り付けられた。首、腕、胴、足。明らかに堅くて痛くて冷たい紐で強く縛り付けられているのに、笑っていた。
仕事だった。今まで何度もやってきた。死刑執行人、それはこの村の誰もが通る道。だけど今日だけはなぜだか手が震えた。出来る限りそいつを見ないようにして火を付けてからも、ずっと震えていた。わけもわからず、がたがたがたがた、止まらなかった。
だけど、彼女は、笑っていた。
ちり、ちり。 そいつの体が少しずつ火にまみれていく。
ちり。 足下からすくうような炎。
彼女は思わず声をあげ、顔を背けた。そのとき肩先までの髪が揺れて、首筋が覗いた。
小さな痣?
僕は思わず自分の首に手を当てた。
人間が生きていく上で、禁忌とされていること?
確かに彼女は僕と同い年ぐらいだ。だけれども、やけに父さんの話を聞きたがったりまるで僕を小さな子どもだと思っているような口ぶりだったり初めて会うはずなのにどこかでどこかで見たことがあるような気がしたり側にいて欲しいと思ったり甘えたくなったり。同じ場所に、痣があったり。
そんなまさか?
確認する手段など何もなかった。ただ、僕は目の前の彼女を助けなければいけないと思った。
燃え盛る炎に飛び込んだ。熱かった。死ぬほど熱かった。だけれども僕はがむしゃらに、必死になって彼女を縛り付けるその紐を解こうとした。村の皆の静止の怒鳴り声が、遠くに聞こえた。
――何を、してるの?
もがいていると優しい音が天から降ってきた。見上げれば、彼女は泣きそうな顔で僕を見つめていた。
――お前は、いや・・・あなたは、僕の・・・
そう言いかけたと同時に僕の体は村の皆に引っ張られた。僕は彼女の呼び名であるはずのそれを何度も何度も叫んだ。彼女の顔がくしゃっと歪んだ。
――ばかね。 どうして気づくのよ。
愛しそうに愛しそうに微笑んで、彼女の姿は揺らいで消えた。熱くて紅い、炎の中に。
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