―――――REASON04


私は、その後真理奈ちゃんを褒めちぎった。

なんて凄いんだろう!?

バイオリン、っていいな・・・。

私は心からそう思った。

真理奈ちゃんほどうまく弾けなくたっていい。

バイオリン、やりたいな・・・。

そう思う気持ちが無かった、って言ったら嘘になる。

でも、そんなことできない。

バイオリンなんか習うお金の余裕はうちにはない。

私はほんのちょっとした気の迷い、ということでこのことを片付けた。





「今日はありがとうございました。」

私は深々と頭を下げた。

「いや・・・っていうか、ごめんね?あの人、本当に噂が好きなんよ。他はいい人なんだけど・・・」

真理奈ちゃんのお母さん。

ちょっと眉をひそめて言った。

「絶対にまた来いよ☆藤ちゃん本気で気に入ったから!!!」

けらけら笑いながら言う真理奈ちゃんのお姉さん。

「楽しかった?」

「はい!」

「いえ〜い!ならよかったっ!!!」

弟君2人。

でも、真理奈ちゃんだけがぼーっと私を見ていた。

「?真理奈ちゃん???」

真理奈ちゃんは、我に返った様に私を見た。

「・・・恵理子・・・」

「どうしたんですか?」

私は首を傾げた。

「恵理子、お前さー、バイオリンやってみたいんじゃねぇ?」

その言葉に・・・驚いたのは私だけじゃなかった。

「えっ!?藤野さん、本当っ!????」

真理奈ちゃんのお母さんを始め、お姉さんも弟君も驚いていた。

「え・・・確かに、興味はありますけど・・・」

でも、習えないです。

そう続けようとしたのに、私の言葉はそこで終了した。

「ぃやったね!じゃあ、決定!うちにおいで!!!」

そう言った。真理奈ちゃんはそう言った。

嬉しくてたまらなかった。きっと、夏休み分の私に来なかった幸せが、来たんだと思った。

その言葉だけで十分だった。

私には、払うお金が無い。

でも、ただで教えてもらうなんてそんなこと、できない。

皆のその温かい眼差しだけで、私は嬉しかった。

「本当にありがとうございます。」

私は久しぶりに心の底からの笑顔で言葉を紡いだ。

「その言葉だけで十分です。私には、お稽古に行くお金とか・・・まぁ色々その他にも、無いんです。だから、習えません。ごめんなさい。でも、凄く嬉しかったです。」

真理奈ちゃんは黙って聞いていたけれど、急に首を振り出した。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!あたしは、そんなの嫌!!!3月の発表会まででもいいから一緒にやろう!コンクールとかに出ろなんて言わない!一緒にやろうよ?」

今までだったら、「何この人?凄い自己中」とか思ったかもしれない。

でも、今だったら、そうは思わない。これが、真理奈ちゃん流の人の思い方。

凄く、優しい、ってことわかったから。

「ありがとう・・・でも、無理です、私には・・・。バイオリンも持ってないし・・・」

「バイオリンなんて!ね、母さん!バイオリンぐらいいいだろ?貸したって全然構わないだろ???それに、授業料とかもいらないよな???」

「ま、バイオリンは・・・音の良し悪しを考えなければ・・・。お金も、1人ぐらい余裕!!!所詮私のなんて趣味だし?マネーはとーさんが稼いでくれるからねー」

「な、あたしから、頼むって本気で!あたしは恵理子とやりたいんだよっ!!!」

何で真理奈ちゃんはこんなに必死なんだろう?

でも、ここまで言われて断るって言うのも・・・そっちの方が失礼かも。

なんて自分に都合のいい言い訳を私は考えていた。

「恵理子ぉ〜。」

泣きそうな目で私をじっと見つめる真理奈ちゃん。

私はちょっと・・・いや、かなり揺れていた。

ど、どうしよう・・・。

「藤ちゃん、今から半年ぐらいやん。ちょっとやったりやー。多分、真理奈すんげぇ藤ちゃんのこと気に入ったんやわ。」

お姉さんがくすくすと笑った。

弟君2人も好奇の視線で私を見つめる。

・・・やっちゃおうかな・・・

「・・・はい。じゃあ、3月まで・・・ってことで・・・。あ、でも、お金はいつか絶対に払いますっ!!!出世払いって事にしてもらえれば一番ですけど・・・」

私が最後の方は小さな声になりながら・・・だったけどそう言ったら、真理奈ちゃんの顔がどんどん綻んでいくのが目に見えてわかった。

「わーいっ!!!やった!一緒にやろう、恵理子っ!!!」

「お金は私たちの覚えてない出世払いにしときましょーか☆」

「んじゃ、これから藤ちゃんはうちに通うんだよねー?やった♪」

真理奈ちゃんやら、真理奈ちゃんのお母さんやら、お姉さんやら・・・皆の声で誰が何て言ってるかわかんないぐらいだった。

どうして、この人たちは他の人の幸せでこんなに喜べるんだろう?

でも、ここは私にとって居心地のいい場所。

家のこととか、全部忘れられる凄くいい場所。

「毎日来る?」

真理奈ちゃんが私ににかっと笑った。

「え・・・いいんですか?」

「もちろんさねっ♪」

「じゃあ、来れる日は・・・来たいです・・・」

半年やそこらでうまく弾けるような簡単なものじゃないと思う。

だから、できる限り・・・練習したい!

「よっしゃ決定!!!」

真理奈ちゃんが笑いながらそう言った。

そして家族の皆と談笑。

楽しい。帰りたくない。

でも、もう時間も10時過ぎてるし・・・帰らなきゃだよね。

「あ、えっと、これで・・・」

「うん。また明日、学校でな!!!」

そうだ。明日から学校。

あんなに憂鬱で、行きたくなかったのに・・・。

ちょっと明日から変われそうな気がする。

ちょっと明日から頑張れそうな気がする。

久しぶりに体感した人の優しさ。温かさ。

ずっとここにいたいぐらい・・・。そんな気持ち起こさせるぐらいのところ。

今までの私には考えられなかった。

ドキドキしてたまらない。

わくわくしてたまらない。

家に着いてからも、そのドキドキは止まらなかった。

いつも、家に帰ったらちょっと気分が落ち込んだ。

どうして皆は温かい家族がいるのに・・・私には、いないのっ!?って強く思った。

でも、今日はそんな孤独感を味わうより先に、いい気分で眠りについた。

あの時、スーパーに買い物に行ってよかった。

あの時、真理奈ちゃんに会えてよかった。

明日がこんなに楽しみなことって今までになかった。

普通の家よりはちょっと小さいかな、っていうぐらいの一軒家。

そこに独りぼっち。

いつもだったら淋しくてたまらなかった。

でも、今日は何となく1人じゃない気がした。

きっと、明日学校行ったら話し掛けてくれそうな友達が出来たから。

今までだって話し掛けてくれそうな友達がいなかったわけじゃない。

でも、今までと違うのは・・・


"私からも話し掛けたい友達"


だからかもしれない。











大好き・・・真理奈ちゃん。そして真理奈ちゃんの家族の皆。

また、明日・・・












コメント:
2002.11.10.UP☆★☆
一応・・・完結、ですが;
「バイオリンを弾く少女」になるはずだった藤野恵理子さんは、まだ弾いていない状態です。
しかも、これから色々頑張れそう、と言っているのに・・・
母親のこととか、まだまだ全然伏線だけで答えが出てないこともあります。
こんな気持ち悪い終わり方、嫌ですよねっ!?私は、嫌ですっ!!!(オイ)
つまり・・・「REASON」は<完結>ですが、続編が出る可能性は大っ!!!
ってことで・・・あんまり期待せずに待っててくださいね♪
では、とにかく那都様にお送りいたします。もらっていただけると嬉しいです!



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