++DREAMERS 〜REASON2〜 ++ 【3】
「おはようさん。」
「あ、おはようございます。」
登校途中、歩いてたら後ろから声をかけられた。森脇君だったから、戸惑いながらも返した。
「昨日はどれぐらい勉強したんだ?」
・・・それって・・・私に、話し掛けてくれてるの?私のことを訊いてくれてるの?気に掛けてくれてるの・・・?
なんだか、その“普通”の会話が信じられなくって、森脇君の目を盗み見るようにしながら、訊いた。
「私ですか?」
「他に誰が居るんだよ。」
呆れたような森脇君の声。さも当然って言い方してくれた・・・。そんな些細なことだったけど、物凄く、物凄くびっくりした。
「私は…昨日は、昨日やった授業の分のノートまとめと、今日の分の教科書をざっと読んだだけです。英語も数学もなかったのであんまり・・・」
意外にもすらすら出てきた私の言葉に、森脇君は、はぁと溜息をついた。
「お前な、今日は全然ねぇだろ?勉強っぽいのは6限中社会ぐらいじゃねーかっ。勉強する必要、ないっ。」
「でも、理科の実験は何をするかしっかり見ておかないと危なくないですか?」
「オイオイ、そんなの先生が授業前に説明するじゃねぇか。」
「そうですけど・・・。あ、じゃあ保健はどうするんです?先生の話は教科書を読まずに進んでいくから自分で予習しておかないと授業もったいないことしちゃうじゃないですか。」
森脇君が凍りついたのを私は、見た。
「か、考え方が違う・・・。あんた、将来東大とか行くのか?」
「それもいいですけど、・・・」
多分、大学は行けないや。
「まぁ、やりたいこと色々あるもんな。まだ考えなくていいか。」
森脇君はニコッと笑った。
私に気を使ってくれたんだ。いいとこ、あるなぁ。
私がそう森脇君に感心していると、後ろから誰かが走ってきて、抜かしていった。
「ハヨッ!森脇、藤田!!」
体育会系の挨拶。爽やかな笑顔。
え・・・嘘だぁ・・・!?
でも、見紛うはずもない。それは、例の大人気者――・・・深澤久志だったのだから。
「おー!おはようさん。」
森脇君がフツーに返してる間に、深沢君は行ってしまっていた。
「やっぱあいつ足速いな〜。」
森脇君がなんだか嬉しそうに呟いている。私は、ただ呆然としてしまっていた。・・・深澤久志が、私の名前を呼んだ?
あの、深澤久志が!?
「ん、どした?藤田。」
「あ、いえ・・・。」
私は戸惑った。まさか、深澤久志に声を掛けられるなんて思ってなかった・・・って言ったら森脇君は気分を悪くするのだろうか。
「・・・森脇君は、深澤・・・君、と、仲がいいんですか?」
森脇君は驚いたような顔をしたあと、ふと笑った。
「おぉ、長い付き合いだしなっ。」
「長い?」
「ん〜、かれこれ14年ぐらい?」
「って、生まれたときからずっとじゃないですか!」
「そうだよ。隣同士の家なんだけどさ、なんとも誕生日が一緒なんだよな〜。」
森脇君は嬉しそうに少しだけ出っ歯の歯を出して笑った。
「だから、そんなに親同士が仲良かったわけでもないんだけど、何か意気投合しちゃって。病院まで一緒だったからホントに14年の付き合いだよ。」
私は、なんだか凄く意外だった。だって、あの深澤久志だよ?森脇君と一緒の環境で育ってきたっていうのに・・・この違い・・・
「ん〜藤田、何かすごい衝撃受けてるな?さては、深澤久志のファンだった?」
「あ、それはないです。」
にやりとしながら言う森脇君に普通にサラッと答える私。
「即答かよっ。」
即答した私に向かってまた笑う森脇君。・・・私、森脇君の笑顔見てるとチョット救われるかも。
決してかっこいいとは言えない。モテる男の要素は一つもない。だけど、モテない要素もあんまりない。
そうだなぁ・・・言うならば、好きな子から恋愛相談されちゃうタイプ、かな・・・。でも、何となくわかる。友達にならなりたいと思うし。
私と森脇君はそのあともとりとめのない会話をしながら歩いていたのだけど、また深澤久志が走ってきた。
「おー?2人とも、付き合ってんの?」
「いや、違うよ。」
茶化す深澤久志にも森脇君は落ち着いて首を振る。あ、そーか。森脇君ってやけに父親っぽいんだ。だから、何か安心できるんだ。
「んじゃ、俺もまざろっかな♪」
そう言いながら私と森脇君の間に入った。
あの、深澤久志が!!!
「あ、あの〜」
私が声をかけると深澤久志は振り向いてにっと笑った。
「何、藤田?」
くぅ〜、爽やかだわ。何だか、声掛けにくい・・・。
「何でもないです・・・」
あぁ、これじゃあ変な人みたいになっちゃう。いきなり初めましての会話がこれかぁ・・・。
でも、深澤久志は気にする様子もなく、ただ・・・白い歯を見せて・・・笑いながら言った。
「藤田ってホーント大人しいよなぁー。」
お、大人しい!?
「いや、大人びてるっつー方が正しいぞ。」
森脇君からの訂正。って大人びてる!?
「そなの?」
「だって、考え方がすげーもん。オレ、さっきマジで感心したし。」
「へぇ?何に?」
「こいつ、毎日の予習復習とかちゃんとしてんだぜ?」
深澤久志は驚愕の表情で私を見た後、大げさに後ずさった。
「う・そ・だ・ろーーー!?」
「嘘ついて何の得があるんだ!?」
「ないけどさ!」
深澤久志がブルブルっと身体を震わす。水を掛けた仔犬みたい・・・。
「ホントなのか、藤田!?」
わわわ!!・・・いきなりがっと詰め寄られて、私はびっくりして半歩下がる。つーか、間近で見れば見るほど美形だわ・・・深澤久志。
ただ、私の好みじゃないけど。
「は、はい・・・」
ぅわー、声が消え入りそう。駄目だなぁ。どうしても、苦手なの・・・こういう人は。
「すっげー!!俺もマジで尊敬するし!」
「だろ?しかもそれを当然だと思ってるんだぜ?」
そして深澤久志はいきなり道路に土下座した!
「へへ〜参りました〜〜〜」
「ちょ、深澤君!?」
「へへ〜どうか〜どうか〜」
何度も何度も両手を上げては地面に下ろす。も〜、周りに見てる人の視線が痛いよ〜っ。
「も〜、やめてください深澤君・・・」
私が言うと、深澤君はジャンプを交えて立ち上がった。
「わっかりました、師匠!!」
「師匠!?」
「だって、すげーもん!俺らまだ中学生だぜっ?なのに、もうそんなに勉強するなんてさ!藤田なら、どんな高校でも行けるよ!」
ぅわぁ・・・
私は、その時―――――彼に見惚れていた。
屈託ない笑顔。日に焼けた肌。白い歯。長い睫毛、ツリ目だけど、真っ直ぐな瞳。整った顔立ち。
なのに、全然悪びれもしないし、普通に優しいことを言う。
私は、別にどこどこの高校に行きたい〜何ていうのはない。ないけど、そう言われて悪い気はしないもの・・・。
「深澤君・・・」
さっきより少しだけ大きな声で、私は深沢君に話し掛けた。
「ん?」
「ありがとうございます。」
本当に・・・。
けど、頭を下げたあとの私の目に飛び込んできたのは、不機嫌そうな深澤君の顔だった。
「藤田・・・」
深沢君は、むっとしたような口調で私に話し掛ける。
な、なに・・・?私、今、この素直な人を怒らせてしまうようなこと言った・・・?
「嫌だ。」
「えっ!?」
「俺、敬語凄く嫌いなんだよ。」
怒ったような口調。私は少し困ってしまった。
「あ、オレも少し思ってた。もう初対面でもないわけだし、敬語なんて使うなよ?」
森脇君も口を挟む。
「でも・・・」
「でももイモもない!」
そんな言葉はありません。
「俺が嫌いなの!」
「・・・でも、深澤君・・・森脇君・・・」
私は、肩先まである髪の毛を払いながら言う。
「私・・・貴方たちと同じじゃないですから・・・」
この敬語は無理して使ってるわけじゃない。距離を置こうとしてるわけじゃない。
ただ、私から貴方たちへの心。
「私は、こんなちっぽけなんです・・・。貴方たちみたいに、色んな人と喋ったりもできないし・・・」
深澤君の顔も、森脇君の顔も見ないことにした。
「だから、敬語なんです。下の人間は上の人間に対して、敬語を使わなくちゃ。」
「・・・絶対嫌だ。」
深澤君はまだ言ってる。
「だから・・・」
私がさらに説明をしようとしたら、首をブンブン振って、さらに言った。
「絶対嫌だってば!藤田の意見なんて関係ないっ。・・・お〜れ〜が〜いや〜〜〜〜!!!」
あぁあ、今度はダダッ子のように暴れ出した・・・。
何だか、深澤君って・・・子どもみたい・・・。本当に。
かわいい。
「それに!」
さらにまたジャンプ付きで向き直る。
「藤田は俺の師匠なんだから!」
「それは・・・」
冗談じゃないんですか。
「さっき俺が決めたんだよ!そうするの!!」
それでも・・・
それでも、
「それでも、ごめんなさい。敬語だけは崩せません。嫌なら、・・・残念だけど、あんまり喋れません。」
深澤君が人気あるのが少しわかった気がした。端正な顔立ちに、超スポーツマン。そしてこの子どもっぽい性格。
あぁ、女の子のツボを押し捲りじゃないですか。
・・・そしてやっぱり深澤君は、剥れた顔をしていた。
ふふ、かわいーの。
けど・・・もう、きっと喋れないんだ・・・。
今日初めて喋ったって言うのに、何だか少し淋しくすらあった。
でも、その時だった。
「久志、しょーがねーって。それぞれに考え方があんだから。諦めろっ。」
森脇君が深澤君の頭をパシンと叩く。
「でもよーっ」
「お前と違って藤田はオトナなの。考えることが色々あんの。」
ゆっくり諭すように言う森脇君。
「そうだけど・・・」
「だったら、諦めろって。これも藤田のいーとこだって認めちまえって。」
“いーとこ”?
これが?
・・・そんなこと言われたの・・・初めて・・・―――――。
「わかったっ。わかったよ!!」
深澤君はまた私の方を向いた。
「けどな!?藤田を師匠と崇め奉るのはやめないからなっ!!」
ビシッと私を指差して、そう言い放つ深澤君。
もう、可笑しくって可笑しくって・・・
「ふふ・・・あははははははははっ!!!」
思わず、声上げて笑ってしまった。
「・・・恵理子!?」
聞こえた声に後ろを振り向いたら、そこにいたのは真理奈ちゃんだった。
「真理奈ちゃん!おはようございます!!!」
いつよりも、誰よりも、きっとその時の私の声は・・・大きかった。
コメント(作者(悠樹似卯)逃亡のため代理人):
2004.12.16.UP☆★☆
どーも!作者代理の東真理奈だっ!!!
なんつーか、1年半ぶりらしくって、作者が布団から出てこねーから私がコメントするけど。
まー、次の更新はいつになることやら。
けど、恵理子にも笑顔が見え初めて、なんかいー感じだよな♪
・・・ただ・・・・・・いや、何でもない。
ま、これから先も期待せずお楽しみに♪
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