孤独のRunaway

序章:May
 

 
5月。日差しが眩しかった。君と別れて、何時の間にか3年が過ぎようとしている。桜はもうとっくに舞い散り、淡い緑の葉が一面を覆っている。桜の木の下には、舞い散った花弁が積もっているが、徐々に茶色く変色していた。桜も、満開の時と散り際以外は見ものにもならない・・・などと思いながらそれを踏みつけて歩いていく。
 
僕は大学生だったあの頃と違って就職していた。毎日、片手じゃ足りないほどにやることが積みあがり、気だるく起きることすらままならない。朝の道路は渋滞になるとわかっているのに、毎日同じ時間に家を出てしまう。そして嫌になるほど多い電車での出張。気が付けば新幹線にも乗り慣れてきた。小学生の頃、妹の手を引いて恐る恐る乗ったことなんてあまりにも遠い昔すぎて、前世の記憶とまで思ってしまう。
君との付き合い方は、今思えば信じられない。二十歳なんていう若かったから出来た付き合いだったのかもしれない。君と付き合っている頃の僕は思い返すと苦笑するほどに馬鹿なことばかりしていた。
 
どうして今更こんなに君の事を思い出すのだろう?あぁ、やっぱり今朝見た夢が原因か。急に夢に出てきて・・・余りにも久しぶりすぎて顔なんて思い出せないかと思っていたのに、しっかり細部まで思い出せるんだから・・・焦る。僕が君の夢に出ることなんてないんだろうに、どうしてまだこんなにも僕だけが君のことを考えているんだろう。・・・女々しいな。
 
夜が明ければ、夢の中では気付かなかったのに、あれが夢だったと気付いて・・・全てが色付いていく。現実に引き戻される。忙しい毎日からは逃れられることなどない。
この道を歩くと君を思い出す。君のあの笑顔とか、甘いものに目が無かったこととか、捨てられている猫をどうしても飼いたくなって、大家に泣いて頼みに行ったこととか、成人になったばっかりだったからかやたらと酒を飲んだりだとか。・・・やっぱり、若かったんだな――ふたりとも。
 
でも、もうその時間は終わってしまった。2人の時間は離れてしまった。
 
 
君は今、何をしている?
 
 
僕はいつまでこうやって君のぬくもりを求めて彷徨っているのだろう。忘れたはずなのに、思い返してしまう。
会いたい。会うだけで、いいんだ。それ以上は望まない。
 
でも出来るなら、笑って欲しい。それだけで、今のこの遣る瀬無い毎日から救われる、気がする。
 
□ 2005.04.29. □
予定より1日遅れでスタートな上に短いです。
「May」は今でも聴くと泣けてくるぐらい好きです。
切ない想い・・・。片想いとか、そういうのとは少し違うような・・・
桜も散って5月になると、そんな想いを誰もが浮かべるんでしょうね。

 
 
 
⇒⇒第2話
 
□ Home □ Story-Top □ 連載小説Top □