孤独のRunaway

第1章:今では…今なら…今も…
 

 
1.
 
ルルルル ルルルル
「んぁ・・・?」
電話のベルが鳴っている。うるさいな・・・。誰か、出てくれよほんとにもう・・・。
ルルルル ルルルル
僕はゆっくりと目を開けた。どうして毎朝毎朝こうやって早起きしなきゃいけないんだ?もう流石に嫌になってくる。
つーか、自分のこの馬鹿さにもいい加減に嫌になってくる。昨日から出張で安いビジネスホテルに泊まってること、何で忘れてるんだ?
そうだよ。モーニングコールじゃんか。
僕はのそのそと起き出して、受話器を取る。電子的な声が「7時です」と言う。あと2日、ここで暮らさなきゃいけないのに、1日目でこんなにぐだぐだしててどうするんだよ。
2日の間に・・・せめて見通しぐらい立てばいいんだけど。
 
いつもの通り歯磨きして、んでから髭を剃っていた。ふと気付いてテレビを付けた。NHKのニュースの無機質な声。最近のニュースはかなり言葉使いが乱れてきてるから、僕はNHKしか見ない。一応名目上はきちんとしてるだけはあって、言葉使いは最も丁寧だから。朝から気分悪くなりたくないし。
「・・・というわけで、東海地方に出来る超大型幹線道路『エンドレス』の着工についての話し合いが本日名古屋市で開かれる模様です・・・」
いや、いきなり気分悪くなった。
僕はどかっとベッドの上に座ると、テレビを切った。何が『エンドレス』だよ。そこらにある三流ファンタジー小説でももっとマトモな名前考えるっての。大体、“エンド”はあるじゃないか。エンドレスな道路なんて作れるわけがない。
それに、着工についての話し合いが今日開かれるってマスコミにも公表してたのか・・・。記者とかいたら本気で嫌だ。僕は基本的にテレビを見るのは好きだが、映るのは嫌いなんだ。
あー・・・話し合い、すっぽかそうか・・・?
 
ルルルル ルルルル
ちょっとまずいこと考えてたからか、電話の音に思いっきりびびった。僕は慌てて髭剃りクリームだけ落とすと、電話を取る。
「はい。」
<横山様、お電話ですが。>
「誰からですか。」
<タカダキョウ、と名乗る女性の方ですが。>
「・・・・・・何で?」
<いえ、何でと聞かれましても・・・。繋げますか?>
思わず訊いてしまっただけなのだけど、フロントの兄ちゃんがちょっと面白くて笑ってしまった。
しっかし、なぜいきなり夾から電話が入るんだ?心当たりなんて何もないんだけど・・・。
夾の名前を騙ったサギとかじゃないだろうな・・・。
「どんな感じの声でした?」
<優しげな女性でした。>
うーん。・・・やっぱり夾かな。
「繋げて下さい。」
違ったら、切ればいいか。
 
 
<おにいちゃああああんっ!?>
おー、やっぱり妹の夾だった。
「おー、僕だよ。ンだよ、朝っぱらから。」
<テレビ見たよ!!ほんっとーに、名古屋に帰ってきてたんだ!?>
テレビのばかやろう。
「帰ってきたわけじゃねぇ、って。し・ご・と!!」
<でもでも、もしかして『エンドレス』の着工が始まったらこっち来るんじゃないの!?>
うっ。図星だっ。
「まだわからんっ。」
<いーや!お兄ちゃんがそう言うときは大抵図星っ!・・・来るんだね!?>
「別に名古屋に来たっておめーにゃ関係ないだろっ?もう既に2児の母のくせして、家庭を大事にしろ、家庭を。」
<もしよければウチに泊まりなよ!!>
あー出た出た。夾の誰の言うことも聞かない癖。自分の言いたいことだけバシバシ言ってくるんだよなァ。
「よくないからそっちにゃ泊まらん。」
<えーっ、何で〜?>
「・・・僕はここで予約したんだよっ。もういいだろ〜?用意させてくれよ・・・。」
電話の隣にある時計が目に止まって、最後の方は本気で懇願してしまった。ヤバイ。7:40にはこのホテル出ないと間に合わないのにまだメシすら食べてない。ちなみに今は7:20。・・・もうアウト?
<わかったよぉ。でも、また電話してよねっ?>
「はいはい。」
そしていきなり電話が切れた。慌しい奴。
でも、声が本当に綺麗なんだ。今は地元の大学の教育学部に通ってる・・・二十歳になってもまだ1年だけど。本当はかなりの名門に入ったのに、退学になったからなぁ。ま、年子で子ども2人も産むからそういう羽目になるんだろうけど。
あいつは、高校の時担任教師と大恋愛して大学入学と同時に結婚した。相手は結構年上だったから流石に心配したらしいんだけど、夾はあのノリで突っ走ってしまった。で、押し切って結婚した。で、子ども大量生産、と。
僕は、大学時代・・・あの人と別れてから・・・全く華の無い生活をしているから羨ましい限りだ。夾は子どもが出来ても、それでも学ぼうとしているから、とても毎日が充実しているらしい。
僕だって、そんな生活を送りたい。
まぁ、端から見れば僕の生活は充実しているのかもしれないが。
 
僕が就職したのは、僕の叔父が経営している会社『マウントサイド』。あー・・・と言ってもコネとかじゃなくて、ちゃんと正規の試験受けての実力入社だから。筆記とかなんて一番だったんだぞ?
まぁ、でもコネがないとは言わない。なぜなら、この会社の未だ嘗て無いほどのプロジェクト、幹線道路『エンドレス』の工事に携わることが出来るのだから。入社2年目の僕にとってはかなり・・・というか、ありえないほどの大躍進だ。
今日の国と県のお偉いさんとの話し合いもなぜか参加することになった。見ておけ、と叔父に言われれば嫌とは言えない。同僚に「もしかして社長お前にあと継がせる気なんじゃねーの?」と言われて確かにそうかもしれないと思った。叔父には息子と娘がそれぞれ1人ずついたが、2人とも全然違う方面に進んでしまったから。
僕にとっては、今やりたいことをやれているんだから役職なんてそんなに拘らない。まぁ、くれるというのなら貰う。そんな感じだった。
そう、でも・・・やりたいことをやっているはずなのに・・・。
それなのに、なぜか、異様に毎日が遣る瀬無いんだ。何だかなあなあに過ぎていってしまって。
つまらない。
僕ははぁ、と溜息をつくがそんなことをしていても時間が過ぎていくだけだという現実に気付き、慌てて用意を終了させた。
あーあ、もう時間は既に7時35分。今日も朝飯抜きか・・・。
 
□ 2005.05.25. □
久しぶりに予定通りに更新♪
「今では…今なら…今も…」、この曲、凄く情景が思い浮かびません?
どんな状況かって・・・それは、1章が終わってから話すとして。
淡々と切ない感情を歌っていく、この感じがたまりませんね。

 
 
 

 
□ Home □ Story-Top □ 連載小説Top □