砂時計

−−−03

 
3.
 
とぼ、とぼ…
独り、家の前にやっと辿り着いた。久々にマジでヒットな女の子に出会ったから、余計にショックがでかいぃ…。
やっぱりオレには彼女っつぅもんはできないのか?自分で言うのもなんだが、顔は美形だと思うんだけどなー…。
制服のズボンの右ポケットから家の鍵を取り出すと、オレはのろのろと鍵を開けた。オヤジもかーさんもいないのわかってるけど、こうしょぼくれた心境の時、家でも独りだと本気でぐれそうになるわ…。
 
足を引きずって、何とか2階の自分の部屋に上がった。
そのまま背筋を伸ばすことなく、ベッドの上に倒れこむ。
「っかーーーーーーー!!!」
誰に言うでもなく、叫んでみた。つか、そうでもしねーと悲しすぎて。
 
そんなに本気になったわけでもなかったけど、本気で失恋した気分だし。
マジで可愛かったなァ…マイ…。
 
 
 
ぐぅ。
 
 
 
 
「ってぇええ!?」
気がつけば、真っ暗。
「何時だよ!?」
マイのこと考えながら、寝ちまったらしい。あーーーー!今日は見たいドラマがあったのにー…
時計を見れば、もう既に夜の10時半。あれ?ってことは、今日は両親共に遅番かー。
 
オレの両親は、宇宙ステーションの整備の仕事。まぁ整備っても、実際宇宙に行くわけじゃなくて、地球から情報を管理するだけなんだけど。もう大分昔に宇宙ステーションが作られてから、大きな事故は…なかったわけじゃないけど、まぁそこそこの運転をしてる。
まだ人間が宇宙に簡単に出て行ける!って段階じゃないけど、宇宙ステーションの中では、植物とかも余裕で育ってるらしいし。
そんなわけで、オレの親の仕事の時間はマチマチ。だから、自分でちゃんとしねーと、こう……悲しい結果になる……。
 
ま、確か夜勤ではなかったはずだし。もう少しで帰ってくるだろ。
ここまで来たらコンビに弁当じゃなくて、かーさんに作ってもらおーっと。
 
オレはぼーっとそう考えて、そして足元に固まっていた布団を引っ張った。かーさんたちが帰ってくるまでもう一度寝ようと思ったからだ。
そのとき、手がオレの腰辺りに落ちていた何かに触れた。
 
 
「ぁん?」
気になって見てみると……
「あ。」
これ。
 
 
オレって…やっぱり、彼女できないわ。
だって、めちゃくちゃ可愛いと思った女にもらったこういうモノの存在、即行忘れてるんだもんなァ。
オレってアホ…あぁああ!もう、なんだかなー。
 
ペリペリ、と箱を止めてあったセロハンテープを剥がす。一旦マイの目の前で剥がしたあとだから、剥がれ易い。
ペリペリ。…剥がし終え、蓋を開ける。
 
中から出てきたその水色の砂時計。
 
「はーーーーーーーーーー…」
マイの気を引くため、…でなくても普通に買ったかも知れない…。
 
いや、別にこういうものに普段から興味があったとかじゃなくて。何だろう?やけに、心に惹かれるものがある。
みずいろ。
その色が、どうにも何にも代えられなくて。まるで人生の全てを掛けて求めているものを色に表したときのような…変な気分。
何の色で出来てんだろ?
水色の砂を見ながら、どんどん心が晴れてきてるのが身にしみてわかった。その淡い感じがさらに心を落ち着ける。
ベッドの上にぽんと置かれたそれを、引っくり返すでもなく、ただただ見つめていた。
 
「ふぅ。」
しばらくそのまま見つめていたら、肘を突いていた右手が痛くなったからその手を動かした。
その瞬間、少しベッドが揺れた。
「あっ。」
砂時計が、倒れる。
 
 
さらり、と物音することなく、その砂が動く。そのあまりにも見事な柔らかさに、目を見張った。
さらにじっと見つめると……おかしなことに、気付く。
 
何だか、真ん中の方の砂の方が白い…?
 
 
鼻が砂時計にくっつきそうになるぐらいに近づく。確かに、確かに底の方と真ん中の方では色が違う。明らかに真ん中の方が白っぽく、底に潜るほど水色だ。
これって、引っくり返したらさらに綺麗なのが拝めるんじゃ!?
 
もう、オレは死ぬほどワクワクしていた。
砂時計を持つ手が震える。
もう一度水色になるんだろうなー。どういう仕組みなんだろ?
 
 
 
 
とん。
砂時計を、引っくり返した。
 
 
 
 
 
 
 
静かに静かに、砂が落ちる。
水色だった砂は、白くなり、白くなった砂は、―――――桃色になった。
 
 
 
「へぇ〜!!!」
思わず感嘆の声。さらに色変わるとは!しかもまた心底いい感じだし。500円じゃ安かった気がする……。
それに、どうしてだろう。
何だか心がドキドキしているのは。
 
 
オレは、心臓に手を当てた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ふに。
 
「へ?」
今まで味わったことも無い感触に思わず驚いて自分の胸を見る。
な?オレって、胸筋結構真面目に鍛えてたよな!?何でこんなに柔らかいんだ!???
いきなりなぜか太ってしまった。なんだなんだこれは!?
オレはそして髪の毛を掻き毟ってさらに愕然とする。
 
オレ、髪、短髪だよな?
 
明らかに肩先まで、髪がある。
しかもその色が―――――
「銀!?」
なんて色!!
って、今のオレの声…
「あ・あ・あーーー・あえいうえおあおーーー!!」
なんじゃこの高い声は!??????
 
 
背筋が凍る。
明らかに身体が、おかしい。
 
 
 
オレはベッドから飛び降りると、オレの部屋を飛び出した。電光石火の勢いで階段を駆け下りる。
階段の最後の一段を踏み外し、熱帯魚の水槽の前を走ったせいで驚いた魚たちがびちゃんびちゃんと跳ねる音がするが、気に出来るわけが無い!!
チョット待て、チョット待て!!!!!!!!ヤな予感がするぞコラ!?
息も絶え絶えに洗面所に走りこむ。
 
 
そして……
 
 
洗面所の全身鏡に自分を移して愕然とした。
 
 
 
 
 
 
「お前、誰……?」
 
銀髪、長髪。ツンとしたツリ目に、細身の顔。全体的にやせぎすの、美人ではあるがあまり魅力を感じない女―――――…
 
 
 
 
 
「オレ!???????」
 
 
 
思わず頭を抱えて蹲る。
チョット待てチョット待てチョット待て!!!!!!!!
 
 
それは……困る!!
 
 
 
 
 
 
がちゃがちゃっ
「ただいまー!」
 
嘘だろ!?
そんなタイミングでご帰宅ですかお母様?
 
「ナオ、いるの〜?」
オレはざーとらしく、シャワーの音をばーっと立てた。
「あら、シャワー?」
かーさんの声がそれだけ聞こえると、少し小さくなった。どうやらキッチンに行ったらしい。オレはその隙に2階に一挙に駆け上がった。
やばいやばいやばい。やばすぎるぞいくらなんでも!?
 
「ただいま。」
オヤジまで帰ってきたァーーーーーーーー!!
こんな格好見られたら、まるでこんな趣味がある人間に見られて…
 
 
「あれ?ナオ、2階?」
かーさんの声がしたかと思ったら、タンタンと階段を上がる音がした。
 
 
 
 
ちょ……無理…
 
 
 
 
 
 
 
深いこと、考える暇なんて無かった。
手元にあった財布持って窓を開け放ち、ベランダから花壇へ飛び降りる。
「ナオ?」
 
 
 
かーさん、ごめん。オヤジ、ごめん。流石にこんな姿は見せられん…
だって、オレ、オレ、
 
女になっちまったぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
 
 
 
 
そのまま裸足で、家を飛び出した。
どうか一晩寝たら、これが夢でありますように。
 

♪2005.07.04.アップ♪
やっと物語が動き出したところで、しばらく更新休止です。
この先を想像しながら、しばらくお待ちくださいませー。
 
 
 
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