Snow+Snow 「オイちょっとアンタ。」 彼氏と2人で近場の遊園地で歩いてたら、変な女に肩を掴まれた。 「あぁ?」 彼氏に聞こえないようにドスの効いた声で女を睨みつける。その女は、これでもかってぐらいの金髪で、パーマ当ててて、でも長さは肩先程度。結構美人で色が白いのにどぎつい紫の口紅をしていた。 見覚え、泣けるほどあった。 「・・・さっすが。男にうつつを抜かしてても、アンタの本来の性質は変わってないね。」 女は怯みながらも、にやついた。 「・・・誰?」 知ってるけど、とぼけた。 「忘れてるわけ無いだろ?私とアンタの仲じゃないか。」 そう言ってそいつは、大声で笑った。 んで彼氏に気付かれた。 「・・・雪、知り合いか?」 「知らない。」 「オイ。」 「・・・?」 私、水無月雪と、その唇紫の女と、私の彼氏、鷹多悠。なぜかこの3人で歩いていた。 今日は特別な日なのに、なんでこんな女といなきゃいけないの・・・。あぁ、神様は私に味方してないっ!! 「・・・アンタ、この辺に住んでんの?」 「アメリカ地方に住んでる。」 「ンなアホな。今、日本地方から外には出れないだろーが。」 紫唇の女は笑った。・・・まぁ、確かにそれはそうなんだけど。 今、日本には『VAIO』っていう名前の、・・・感染病、が流行している。・・・感染病なんてモノじゃ本当はないんだけど、どうやって説明したらいいかわからない。兎に角、『VAIO』に感染すると――何が大変かって、その感染した人じゃなくって、周りの人間がバタバタ死ぬから大変。 まあ、何を隠そう、それを作ったのが私の父親だったりするんだけど、それは今は関係ないから置いておこう。 「雪、・・・こいつ、誰だ?」 悠が怪訝そうな顔をして私に訊いていた。そりゃそーか。私は、全く知らないって言ってるのに、明らかに向こうはコッチを知ってるわけだし? 「・・・高校時代の友達よ。」 「こんなケバイ女が?」 「オイ。てめぇ、いくら雪の彼氏だからって言っていいことと悪いことがあるぞゴラ。」 「俺は自分を非常に正直だと思っているが。」 「てめっ!!」 「やめて。」 「・・・でも、雪・・・」 「余計なこと言わないで。・・・んで、チョットいい?」 私はその紫唇の耳に口を近づけて、内緒話のように話した。・・・ってか内緒話なんだけどね。 「・・・あんね、悠に何も言って無いのよ。」 「『言って無いのよ』ってあの天下の逆十字(クロス)の雪が女言葉なんて・・・って言ってないのか!?」 「えぇ。だって・・・悠の前では女なんだから。」 「マジで!?あの雪がッ?・・・よっぽど惚れてんな。」 「もちろん。何年彼を好きだと思ってるのさ。・・・とにかく、この場は去ってくれない?ばれたくないのよ。」 「・・・あぁ、雪がこんなになっちまった。」 「悪いわね。私は今の自分が嫌いじゃないけど?」 「ふん。・・・あー、でも私はどっか行ってもいいけど、隠し通すのは無理かもなァ。」 「何でよ?」 「・・・今日、地元の奴らがこの遊園地にいっぱいいるから。」 「何でよ!?」 「今日は皆で遊びにきたんだよ。・・・まっ、会わないことを祈るこった。」 青ざめる私。紫唇のその女は、いきなり笑った。 「じゃー、またな〜。たまには帰れよ!」 「え、えぇ・・・。」 戸惑いながらその女を見送る私。 「・・・結局、アイツは誰なんだ。」 「んー、特に・・・説明するまでも無いけど、高校のとき偶然同じクラスだっただけのコだよ。私、結構幅広い層に指示を得てたからさ!あ〜いうコも友達に偶然居た、ってだけで。」 「じゃあ何でお前、アイツにあんなに素っ気無いんだ。」 「だって・・・」 私は沈黙した。 「だって、名前忘れちゃってたんだもん!!!」 兎に角、まだ午前中なわけだし、楽しまなくっちゃ!ってわけで、まずは絶叫系を攻めることにしました! 「ねぇ、悠ぁ。アレ乗ろうよ!!」 「『ウルトラ・ツイスター』?」 「うんっ!ぐるぐる高速回転しながら降りてくるやつ!絶対面白いってばっ!」 「いいけど、90分待ちだぞ。」 「えぇえっ!?何でよ!」 「・・・冬休み・・・には入ってないか。ま、兎に角日曜だからじゃないか?」 「こんな寒い季節に遊園地に来るバカなんているんだね。」 「俺たちもな。・・・まぁ、クリスマス前の最後の休日だからかもしれんが。」 「そうねー。じゃあ、どこも混んでるんじゃないの?・・・いいや。並ぼう!!!」 「マジか・・・。」 チョット嫌そうな悠の腕を引っつかんで、私はずんずん進んでた。 だって、この『ウルトラ・ツイスター』ッ!すんごく面白いんだよ?ぐるぐるぐるって回ってさ。中に居る人は叫ぶことも出来ないぐらい恐いらしい!! めちゃくちゃ、面白そうじゃない? が、本当に『ウルトラ・ツイスター』には鬼のような長蛇の列。・・・あー、本当に90分で足りるんだろうか〜。ヤダヤダ。 「真面目に、混んでるね・・・」 「俺が真面目じゃないかと思ったのか?」 「悠は真面目じゃないことも、真面目な顔して言うじゃない。」 「そうだな。」 「そうだな、って〜。もう、何よそれぇ!?」 溜息吐きながら、待ってる人の為に置かれてる銀色の鎖を付けた柱のうち一つにもたれかかった。 「・・・雪さん?」 ヤーナ声。 「オイ、雪さんじゃねぇ?」 「ウッソ、雪!?」 「雪さん!!!雪さんっ!!!!!」 ・・・誰だよぅ、私の名前を知っているのわ!!! 「・・・嘘、檀!?」 「雪さん〜〜〜〜っ!!!!確かに、真木(さなぎ)が雪さんと会ったって言ってたけど、本当だとは思わなかった!」 「あぁあああっ!!」 「?」 「そう、そうよ。『真木』だわっ。『夕闇バタフライ』よね!真木・・・つまり、サナギから来た言葉ッ。」 「ゆ、雪さん〜?」 「あぁ、ごめんね檀。あんたの名前は、すぐに思い出したからっ。」 「あ、はぁ・・・。」 「にしても久しぶりね!!いつ以来?」 「うん、オレも凄く嬉しい。ってゆーか、雪さんなんか丸くなったなァ。」 「ウッ、太った・・・?よね、やっぱり。最近鍛えてないしなぁ。」 「いや、太ったじゃなくて、性格がっ!!!」 「あぁ、・・・それは確かにネ。」 「あの、バッタバッタと三十人以上いる敵を丸腰で倒した逆十字(クロス)の雪とは思えない。」 檀が興奮して大声で言ってしまった時、私は背後の人の存在を思い出した。 「・・・三十人以上いる敵を丸腰で・・・?」 「あぁあああああっ、悠、気にしないで!!!今のは何の関係も無いの。本当に無いの!!!」 「何と関係がないんだ?」 「私と!!!」 一瞬流れる白〜い空気。私にあるのは滝の汗。 「ふぅん、で、そこの女。三十人以上いる敵を丸腰で倒すことと雪はどういった関係があるんだ。」 「良くぞ訊いてくれました。それはですねー、」 「ままままま檀ッ!悠も!嫌だって言ったじゃないっ。」 「何でっ?いいじゃん、オレと雪さんの仲だし。」 「確かに檀は親友だけど・・・」 でも、悠のが好きなの。 「ま、いーや。えっと、そちらは・・・?」 「鷹多だ。鷹多悠。」 檀はピーンと背筋を伸ばした。 「あぁ、貴方があの『はーくん』ッ!!」 「なっ!?」 悠が戸惑ってる。やばいやばいやばいっ。 そ、そうだ。高校時代・・・檀たちには言ってたんだった。 私には、幼稚園の時からの想い人がいるって・・・。 しかも、檀が大声を出したせいで檀の側に居た・・・仲間たちがこっちに気付いてしまったっ。 「『はーくん』!?」 「って、あぁああっ!!!雪さんっ?」 「雪さんだぁぁっ。俺のこと、覚えてますか!?」 「雪さん〜〜〜っ。」 「お久しぶりッス、雪さん!俺あれから強くなりましたよっ。」 「雪さん、何でこんなとこにいるんですかっ??」 悠が面食らってるぅ。無理もない。 「???」 「まぁまぁ、そう驚かずに。あんた、雪さんの同級生だよな?ってことはタメだから、敬語使わなくていいよなぁ?」 「あ、あぁ。」 「へへ、オレ会ってみたかったんだよな〜。『はーくん』に♪」 「・・・?」 「だって雪さんが楽しそうに話しててさっ。」 「・・・。」 「雪さんの勇姿、はーくんにも見せたかったよ〜。」 檀は嬉しそうに私を見た。私は曖昧な笑みを返した。 「まっ、順番来るまでまだまだ時間はあるし昔話に花を咲かせましょうか?」 「・・・やめろ・・・」 檀の言葉に、私は悠にばれないようにドスの効いた声を出し、これでもかというぐらい睨み付けたら、檀は少し無口になった。 周りの仲間たちも、それと同時にすこ〜しだけ、大人しくなった。 * * * 結局、私は何とか自分の秘密を徹底的に暴露されずに済んだ。90分、持ちこたえた。 しかぁし、悠はもうなんとなく気付いたんじゃないかなぁ・・・? そう思えてならなかった。 どうしよう。どうしよう。 悠に嫌われたらどうしよう。 「雪。」 『ウルトラ・ツイスター』にも乗ったし、絶叫系は制覇した。 檀たちとも別れたし、何とか落ち着いて・・・日も傾いてきたけど・・・ それで、最後のアトラクションに乗ろうかとブラブラしてる時だった。 悠が、私に話し掛けてきた。 「な、なに・・・?」 「お前、」 「あ、ああっ、そいえば今日は晴れてよかったよねーっ。天気予報では雪が降るって言ってたのにっ。まぁ、雪降りそうなぐらい寒いけどさっ。混んでたけど絶叫系制覇できたねっ。凄く楽しかったよねっ、で、」 「・・・・・・。」 悠の視線に気付いて私は黙った。 あぁ、悠はきっと気付いてる。 ばれちゃう、ばれちゃう。 悠は私が黙ったのを見計らうと、今度はさっきよりずっと私の顔をじっと見つめながら言った。 「お前、」 悠の一言ひとことが重いよ。 何で今日ここに来たんだろう? 「・・・今日で20歳だろ?・・・落ち着け。」 !!!!!!! そうじゃん。そうだった。だから今日遊園地に来たんだ。 私が行きたいって言ったら、悠、にこって笑ってくれたんだ。 今日で私は成人したんだ――。 「で。・・・おめでとう。」 悠がそっと小さな箱を取り出した。 「何、これ・・・?」 「何、って。」 悠が私から顔を背けた。 「プレゼントだ。」 当たり前じゃんね。 「い、いいのっ?」 「いらんのか。」 「うぅん、いるっ!!」 嬉しくて。 朝はそればっかり考えてたのに、何だかゴタゴタしてて忘れてて。 だから、急にで嬉しくて。 ただ嬉しくて。 今日が12月21日でよかった。 今日、悠といれてよかった。 箱を開けた。 中に入ってたのは――――― 「ゆびわ・・・?」 「・・・他の何に見える?」 「え、これって・・・」 「あ、いや。・・・その、えっと。」 悠が照れてる。 何の宝石だろ。透き通ってる綺麗な、白。・・・綺麗な・・・ 「はめていいの?」 「はめなかったらどうする。」 「いいんだね??」 私、左の薬指にはめた。 測ったようにピッタリで、かなりビックリした。 サイズ、知ってたの? 「・・・ありがと。」 はにかんで言ったら、悠、めちゃくちゃ嬉しそうな顔してた。 今日がこんなに幸せな日だってこと、忘れてた。何でだろ。 そうだよ、私たちがもう一回出会ってから、2回目の私の誕生日。 今日私は20歳になった。 悠に祝って貰って20歳になった。 「あ。」 「・・・雪だぁ。」 ハラハラ降ってきたのは、雪。 どうりで寒いとは、思った。 「えへへへ♪」 私が嬉しそうに悠を見ると、悠は大きな溜息をついた。 「雪。」 「なぁに?」 「・・・たとえお前が元暴走族のアタマだろうと、俺はお前から離れたりしないからな。」 ―――――凍りついた。 雪だけが、私たちを優しく包んでいた。 2004.03.15.UP☆★☆ 「VAIO」番外編ーっ♪ 遅くなりましたが、悠×雪です。雪ちゃんサイドより♪ 投票皆様本当にありがとうございましたっ。 スランプ中で書くのに異常に時間かかりました・・・。 推敲も何もしてないから間違いたくさんかも♪ |