BUS STOP!!!04


「りょ、朗菜・・・?」

(めぐる)が耳を抑えながら怪訝そうに尋ねた。

でも、私はそんなの構ってられない。

だって、信じられますか!あの、"SADA"がそこにいるんだよ!?

あれだけ「貴方」なんつー二人称で追っていた"SADA"が!

すぐそこにいるんだよっ!?

ライブのステージ上じゃない貴方を初めて見た。

バスの運転手の服を着て・・・

あぁなんてかっこいいんだろうっ!!!

なんて考えながら目をハートにして貴方を見つめていると、後頭部にいきなり衝撃を受けた。

「ったぁっ・・・何ィ・・・」

「何じゃないっ!朗菜、急にどうしたのよっ。涎垂らし気味だしっ!!!」

振り返った私が見たのは梨伊子の顔。

慌てて口の端を拭いながら周りを見回すと亘と隆樹もつまんなさそうだった。

あーそりゃそうか、私が1人で自分の世界に入り込んでたんだもんね。

「あ・・・」

状況を説明しようとしてふと思いとどまった。

ちょっと待って。

もし、今ここで状況を説明したら、我が意を得たりと亘が調子に乗って・・・結局御崖山に登ることになるだろう。

つまり、バスに乗る事になる。

でも、説明しないでこのまま他のところへ行ったら・・・"SADA"とは二度と会えないかもしれない。

苦しみから逃れる方を取るか・・・"SADA"を取るか・・・

私は、今、究極の選択を迫られていた事にそこまで考えてやっと気付いた。

愛の為に、バスを選ぶか?それともやっぱり楽な道か?

さて、どうするか。人生最大の分かれ道!

「朗菜?」

ぷつ

梨伊子に話し掛けられたのも手伝って、私の頭の中で何かが切れた。

もぉいい。

もぉどーでもいい。

私は、「今」の私の気持ちで行動する。

・・・「1秒先」だって考えないっ!!!

「あのね・・・あそこにいる、運転手!私の好きな人なのっ!!!」

「・・・・・・は?」

「だから、・・・御崖山に行こうじゃないですかっ!」

梨伊子の呆れ顔と亘の嬉しくて堪らなさそうな顔が対照的だった。

「マジマジマジぃ!?よしよしっ!じゃ行こうぜぃっ。」

「アンタはねーー、なんだかもうよくわからんわ・・・」

私は2人ともに満面の笑みで答えた。

隆樹だけ、曖昧な表情をしていた。

理由がわかるようでわからなくって、ちょっと胸が痛かった。





「すいませーん、このバスっていつでますかぁ?」

「あと15分したらだよ。・・・って君、柘植朗菜・・・さん?」

「・・・・・・・!!!!!」

こんなことがあっていいのだろうか。

ステージ上の"SADA"を見つめるだけだった私が、まさかその"SADA"に名前を覚えてもらえてるなんてっ!

あまりの嬉しさに私は倒れそうだった。

「おじさん、どうして朗菜のこと知ってるんだ?」

亘が不思議そうに訊いた。でも確かにそうである。

ただの一ファンにしか思われてないはずだったのに・・・

「僕、バンドやってるんだけど・・・、この前のライブの後、暇だったから後片付けをしてたら、生徒手帳が落ちてたよ。」

ひょうひょうと"SADA"はそう言ってのけた。

隆樹と梨伊子の冷めた瞳。

私は背中に冷や汗をかきながら、大慌てで生徒手帳を探した。

・・・やっぱり、無いよぉ・・・

「今、僕は持ってないけど・・・ボーカルの"REO"が、確か持ってたよーな。」

「ありがとうございますぅぅぅぅ・・・」

本気の言葉に、"SADA"はくすくすと笑った。





そんな私たちのやり取りを、私は気付いていなかったけど、隆樹と梨伊子が見つめていた。

亘は私の隣に立ってたけど、2人はバスの入り口付近で立ち尽くしていた。

隆樹が拳を握り締め・・・握り締めすぎて、薬指の爪が手のひらに食い込んで血が出ていた。

「隆樹。」

梨伊子がその手を取った。

「えっ・・・あ、ああ。」

隆樹が戸惑いながら頷く。

「・・・気持ちはわかるけど・・・抑えなきゃ駄目よ。」

梨伊子が下を向きながらそう呟く。

隆樹は驚愕の表情を浮かべた。

「なんっ・・・で・・・」

「わかるに決まってるでしょ?中学の時からずっと4人でいたんだから。」

淡々とそう言ってのける梨伊子に、隆樹は溜息をついた。

「・・・あいつが気付いてくれればよかったのにな・・・」

「無理なんじゃない?朗菜、中学の時は全く恋愛する気もなかったみたいだし?」

そしてじっと私と"SADA"とのやり取りを見つめた。

「今は、あの人が好きみたいだけど・・・」

「何で・・・ちくしょ、いつも一緒にいた俺じゃ駄目だったのに・・・あんな男が・・・」

下唇を噛み締めた。今度は梨伊子が溜息をついた。

「わかるけど、抑えなきゃ。さっきも未練たらしく謝りに行っちゃって・・・」

「わかるわけねぇよ。」

梨伊子の言葉を遮って、声量こそ抑えているものの・・・怒りを込めて隆樹が呟いた。

「梨伊子には、わからない。絶対に・・・わかったような口ぶりしないでくれ。」

隆樹の言葉に、梨伊子は顔をあげて隆起の顔をじっと見つめた。

「・・・わかるわよ・・・」

「え?」

「・・・何でもないわ。」

隆樹が聞き取れなかった梨伊子の言葉。

そこでもし理解していれば。

少し、この先起こるコトが・・・変わっていたかもしれない。



コメント:
2003.02.16.UP☆★☆
裏なんだか表なんだか。(苦笑)
アレからその後。朗菜にとってはラッキーな展開にしちゃいました。
んで・・・意味深なのが梨伊子っすよねぇ。^^
ま、これは一応考えて張った伏線なんで。(死)
予想外になれるように頑張ります。(^^;)




5話へレッツゴー♪


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