2幻の言葉


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「ただいまー!」

家に帰る。

「・・・あれ?」

珍しく、誰もいないみたいだ。

いつもは、母か兄がいるのになぁ。

父は、外国に単身赴任だ。

まぁ、生まれてからずっとと言っていいほど顔を見てないわけだし、いなくても変わんないんだけど。

さぁて、せっかく帰ってきたのに誰もいないんじゃつまんないな・・・と思いながらリビングに入っていくと、そこには置手紙が。

「これからちょっとお父さんの所に行ってきます!母」

・・・・・・。

私はしばらく沈黙した。

「はぁ?」

ようやっと出てきた言葉はそんなものだった。

ってことは、これから毎日ご飯とかどうするわけ?

ま・・・さ・・・か、私が!?作るの!?

無理だ!無理だ!絶対に無理だぁぁぁぁ!!!

私は頭を抱えてうずくまった。



「でも、オマエ以外にいないだろう?」

高校から返ってきた兄さんが私に言う。

「兄さんが作ってくれればいいのに・・・」

「ま、作れないことはないけどな!やだから!」

兄さんがケラケラ笑う。

いや、今はそんな風に笑ってくれなくてもいいんですけど・・・。

「ま、頑張ってくれや。オレはテレビ見てるからメシ出来たら呼んで。」

そう言って、リビングのテレビ前に座る兄。

「ちょっと、兄さん!?」

兄さんは全くの、無視。

「あんにゃろ・・・」

そう言いながらも作ってしまっている自分を見ると、兄さんのことが好きなんだなって自覚する。

大好きな兄さん。

いつも一緒に入れると信じていた兄さん。

今は他の女の子と一緒にいて、私のことなんて見てくれてもいないけど、きっといつか気づいてくれるのを私は、祈る。

私が、兄さんのことを「兄」以上に思っていることを・・・。

そして、私もいつか言えるようにしたいとも、思う。



ドンガラガッシャ〜ン!!!

「ったぁ・・・。」

やってしまった!

台所に広がるはボールやら鍋やらがひっくり返った図。

「だから、無理だって言ったのに!」

私は誰に言うでもなく、呟いた。

こんな台所を見たら何をする気もなくなってしまう。

「あ〜あ〜、なんだよコレは〜???」

兄さんが馬鹿にしたような声を出す。

「そんなこと言うんだったらちょっとは手伝ってよ〜!」

私が必死な声をあげると兄さんはいきなりまじめな顔になった。

「哀、よく聞けよ。オレが今日は手伝って作る。これからもできるだけ、手伝う。
だけど、絶対手伝えない日が出てくるんだ。そういう日は一人で作らなきゃいけないんだぞ。それをよく覚えて置けよ。」

・・・・・

「え?」

私は思わず間の抜けた声を出す。

「ちょっと、そんな母さんが二度と帰ってこないような言い方・・・。」

「帰ってこないんだよ。」

「?」

「母さんは、もう二度と帰ってこないんだ。」



「それは一体どういうことっ!?」

私は兄さんのあまりもの言葉につい叫んでしまった。

「どういうことって、そのまんまの意味だけど?」

「母さんが帰ってこないって、なんでそうなるの!?」

「母さんの置手紙を見なかったのか?」

兄さんのあっけらかんとした声。

「見たけど・・・?」

「それに、『お父さんの所に行ってきます!』ってあっただろう?」

私はちょっと記憶をたどる。

「うん。」

「父さんのところに行く―――――つまり、死ぬってことだ。」

「・・・え?」

私はまた、間の抜けた声を出してしまう。

「あ、哀は知らないのか?」

今度は兄さんが驚いている。

「・・・どういうこと?」

兄さんは大きくため息をつくと、こう切り出した。

「父さんは死んでるんだよ。」

「は?」

「父さんは、死んでるんだ。哀が生まれたときぐらいに。」

「え・・・単身赴任じゃなかったの?」

「それは・・・母さんの嘘だろう・・・な。」



「ウソって・・・?じゃあ私はずっと騙されてたの?」

だんだん高ぶってきた気持ちとは裏腹に声のトーンは落ち着いてきた。

「俺はおまえはもう知ってるものだと思ってたんだけどな。」

そして、しばらくの思い沈黙の後、兄さんは私の頭を撫でながらそっとつぶやいた。

「ごめんな・・・。」

兄さんが撫でる頭の感触に全神経が集中して、私は身動きが取れなくなった。

まずい。やっぱり私は・・・誰よりも・・・誰も好きになれないのは・・・。

でもそんな私の気持ちに兄さんは気付くわけもなく。

そっと私から手を離すと伸びをした。

「さて、現在の問題に移ろうか。」

兄さんのその言葉に私ははっと顔をあげた。

「そうだ、母さん・・・!」

「もし、母さんが死ぬ気なら俺たちにはどうすることも出来ない。ここまで育ててもらったんだ。もう、あの人の自由を束縛する権利は・・・」

「何言ってるの!?」

あまりの兄さんの言葉に私は思わず叫んでしまった。



「死んだらもう二度と会えないんだよ?生きているうちならいつでも死ねるじゃないっ!
まだ、私は母さんに生きてて欲しい。だから、まだ・・・」

下を向いて嗚咽が漏れそうになってしまった私に、兄さんが近づいてくる気配がした。

兄さんはそっと私の肩に手をかけるとこう言った。

「すまん。そんなつもりで言ったわけじゃなくて・・・。」

そこで一瞬言葉を切ってからまた喋りだした。

「俺だって、母さんにはまだ生きていて欲しいんだ・・・。」

その言葉にどれだけの母さんへの感謝、愛が含まれているかを私はしっかり感じとった。

「兄さん・・・私の方こそ、どなってごめん。」

そして私が謝ったとき、その声は聞こえたのだ・・・。



『哀、陵(りょう)、ごめんなさい。私もあなたたちともっと暮らしたい。
一緒にいたい。だけど、お父さんも独りぼっちなの。私が行ってあげなくちゃ。
哀が15になるまでは哀と一緒に居てあげたかったけど・・・もうすぐだもんね。大丈夫だよね。私は、お父さんのもとへ行くから・・・。
あなたたちはまだ来ちゃだめよ。お金は、机の引き出しに通帳が入ってるから、そこから使ってね。
それがうちの全財産だから絶対に無くしちゃだめよ。2人で生きるのは大変だけど・・・ごめんね・・・。』

―――――話が終わった瞬間、いきなりそれまで石のように動かなかった体が動いた。

「母さんっ!?」

私と兄さんの声がハモる。

「母さん!?母さんなの!???」

でも、どれだけ2人で呼びかけてももう2度とその声が聞こえることはなかった。

「何これ・・・?今のって幻聴?」

「たとえ幻だったとしても・・・俺たちはしっかりと聞いたぞ・・・。」





コメント:
第1章と同じく、かなり昔の作品です。・・・
あぁあやっぱりまとまりがない(><)
第3章も早い目に出せるようにしますッ!

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