4兄を好きな理由


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起きたくない・・・。

心からそう思った。

何で、好きな人の前だけで好きじゃないヤツと付き合わなきゃいけないの・・・?

昴にひどい?

そうかもしれない。

だけど、私だってかわいそうだ。

好きな人に全く、女だって自覚されてないんだから。

実は血が繋がってない兄弟でした〜♪

とかだったらいつかは気付くかもしれないけど、祈っても祈っても、きっと兄さんは気付かない。

でも、もし気付いたら・・・?

私は兄さんとの今の関係がむちゃくちゃに壊れてしまうかもしれない。

きっと、もう一緒に暮らせない。

・・・でも、何で私はこんなにも兄さんが好きなんだろう???

今まで一度も疑問に思わず、ただ単にそれを素直に受け入れてしまったけど、何で・・・。

普通に暮らしている分だったら、私だって兄さんのことをただの兄弟としか思わないはず。

どうして、なんだろ・・・。

そして、私が考えようとしたとき。

「哀〜ッ!!!」

「あ゛〜っ!!!もう、うるさいなっ!!!」

下から大声で私を呼ぶのは、あんだけ私を悩ませていた兄さん。

何か、あいつのことで悩むの、むちゃくちゃ馬鹿みたいになってきた。

「起きないと遅刻するぞ?」

兄さんのその言葉に流石の私も体を起こす。

下に、昴、いるのかな・・・?

いるんだったら行きたくないけど。

とか思いながらも、ご飯食べに下に行かなきゃいけないから、

私は自分の部屋のある2階から、1階に降りた。

・・・そしたら、なんか途中の階段で嫌な喋り声がしたんですけど・・・気のせいだよね?

とか思いつつ、ダイニングに入ると、ダイニングから見えるキッチンに、

昴と―――――兄さんがいた。

「兄さん!?なにやってるの!???」

私の言葉にふっと兄さんは振り向くと、

「ああ、なにって・・・料理だけど。」

「何で兄さんがやってるのよ!?」

「だって俺料理好きだし。」

「だったら何で昴なんてつれてきたのよ!?」

「何でって・・・面白そうだったから?」

「・・・オイ。」

思わず兄さんに突っ込む。

でもこれはいくらなんでも突っ込まずにはいられないだろぅッ!?

「面白そうだったから、って私の気持ちも考えてよ!?」

「おまえの・・・気持ち?・・・だから、それを配慮して、

学校では付き合ってないことにしてやってるだろ?」

「逆の方がいいよっ!!!」

言ってから、気が付いた。

・・・・・・なんて、ことを言っちゃったんだっ!?

やだやだやだやだ、まずいよまずいよぉ〜っ・・・。

ばれる、絶対ばれる!

自分でも自分の顔が赤くなっていくことをわかる。

「え・・・?哀・・・?」

兄さんの、まさか・・・とも言うべき、

動揺してるけど必死にそれを隠そうとしている雰囲気が私にふつふつと伝わってくる。

「何でもないっ!!!」

私はそう叫ぶと、家を飛び出した。

もう、兄さんと普通に喋れない、兄さんと一緒にいれない。

さよなら・・・



そして私が家の前の通りを走りぬけようとしたとき。

キキーッ

・・・その音が、最後に聞こえた音だった。

痛い・・・。

車に轢かれちゃった・・・。

死ぬかな・・・?

死んでもいいけどさ・・・。

何もかもに投げやりになってしまったとき。

私は・・・私の名前を呼ぶ、兄さんの声を聞いた・・・気がした。

兄さんのぬくもり、兄さんの優しさ。

そして、悲痛な声・・・。

あぁ、前にもそういえばこんなこと・・・あったかもしれない。

前にも・・・



そう、それは私が6歳の時だった。

小学校に入学したばっかりで、浮かれすぎている自分。

ランドセルが嬉しくて、外を走り回っていた矢先の事故。

私を轢いたのはダンプで、私は顔と頭以外ほとんど原型を留めていなかった。

「残念ですが・・・」

医者のその声が今でもまだ私の耳に残っている。

私はまだ生きているよ!?

そう言いたくてたまらなかった自分のことを今でもまだ覚えている。

でも、私は死んでいた。

ただ霊としてあたりを彷徨っていただけ。

それだけだった。

母さんが私に縋って泣いている姿が見えた。

兄さんの姿も見えた。

兄さんは、何か意を決したようにして、部屋から出て行った。

「これが・・・成功すれば・・・」

兄さんの部屋にいたのは、『私』。

まぁ、はっきり言えば『私のクローン』なんだけど。



「陵、どうしたの?」

そのクローンの『私』が喋る。

兄さんは、『私』に向かって、こう言った。

「ごめん・・・お前の体を哀に提供してやってもいいか・・・?」

悲痛な声。

せっかく成功した事業を捨てる思い。

全てを理解した『私』は、兄さんに向かってこう言った。

「いいよ。でも、哀っていうのって確か陵の妹よね?だったら、私のこの想いはどうするの?」

そう、『私』は兄さんの長年の研究の成果の上で、

感情を別の人間によって植えられることのできる―――――

しかも一番複雑な感情を―――――

そう、つまり愛を―――――植えられた、クローンだったのだ。

「多分、哀の脳を移植するときに、消える・・・」

それを聞くと、『私』は悲しそうに静かに笑った。

「そっかぁ・・・。じゃあ、“妹”さんは大丈夫だね。

 でも、私は、陵のことを、もう想えなくなるんだね。寂しいな・・・」

そして兄さんは『私』を抱きしめた。

その瞬間に『私』は動かなくなる。

兄さんが麻酔薬を打ったのだ。

「じゃあな・・・」

兄さんのその言葉だけが私の脳裏に強く焼きついた。



「陵・・・?」

私にまだ縋って泣いていた母さんが、兄さんのその持っているものに疑問を投げかける。

だけど兄さんは、そんな母さんを無視して、私のところまで来る。

私は、もう息もしていない。

脳だって機能を停止してる―――――。

兄さんは、さっと小さなメスを取り出した。

「ちょっと陵!?」

そして母さんの制止も聞かずに、兄さんは私の記憶中枢だけを、クローンの私に移植した。

つまり、私の自我だけを・・・。

それから1時間後、私は目を覚ました。

第一声は・・・

「お兄ちゃん・・・?」

だった。

その時の兄さんの顔は、喜びとも悲しみともとれる表情だったのも覚えている。

そうだ・・・。

私はそのとき目覚めてから・・・

兄さんが・・・好きだ・・・。





コメント:
2002.07.12.製作ッ!!!
ふう、なんとか話がまとまってきました。(汗)
まぁ予想とは全然違う方向に進んできちゃったけど・・・。(爆)
まぁ、細かいことを気にしてたら人生負けですよ♪(←おまえはちょっとは気にしろ・・・)

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