「オハヨウ。」 そう、声を掛けられたのは、ヒデが彼女作るぞ宣言をしてから10日後のことだった。 同級生の、葉月麗菓(はづきれか)。声を掛けられたのは、多分5月以来だから…かれこれ、半年振りだ。 私が思わず声が出せずに戸惑っていると、葉月麗菓は苦笑いを浮かべた。 「ま、戸惑うのも無理ないか。ウチらが外したんだもんねぇ。だけど、話したいことがあるんよ。」 はず、した。 そう、私は入学してからちょこっとの間、この葉月麗菓とその他3人、計5人のグループで仲良くしてた。 なのに…ある日、リーダー格の藤田羅弥(ふじたらや)の一言で、誰からも喋りかけられなくなった。 「毎日つまんなくね?…誰か、外そうか。別に私でもいーけど?」 …ゲーム感覚。全員が、硬直した。 誰しもが自分は嫌だと必死に選ばれないようにした。だが、羅弥が外されるとなると…どうなるか、もっと恐ろしかった。 「誰がいーかな。」 羅弥のその視線。私には何か嫌な予感がした。その時、仲良しメンバーのひとり…金成絽亜(かなりろあ)が口を開いた。 「…じゃんけんにすれば。」 自分の耳を疑った。じゃんけんで、今後の生活をずっと決められるっていうの? 「選ぶ方式にすると二度と修復不可能。」 そりゃ、そうだけど、でも。私は震えていた。嫌な予感は消えなかった。 「そっか、絽亜がそー言うんなら、そうしよっかなー。じゃ、行くよっ!出っさなっきゃ負っけよーじゃ〜んけ〜ん」 「待ってよ!!」 思わず声を上げた私。仲良しグループ一大人しい高槌璃舞(たかつちりま)もこっちを見ている。 「待って、せっかく1ヶ月もの間5人でやって来たんだよ!?本当に、そんなことするの?」 「当たり前じゃんか。いい子ぶるなって。平和な毎日に飽きてんだろ?」 「飽きてなんか無いよ!今が、私は幸せだよ!!」 思わず顔を見合わせる4人。そして、羅弥が笑い出した。 「ははははっ?アンタ、どうしたの。そーいうタイプの奴な訳?ぅわ、知らなかったわ〜。」 「違うよ、羅弥。」 少し怒った調子で羅弥に言ったのは、麗菓だった。 「コイツは楽しいに決まってんじゃんか。」 一瞬、私の味方になってくれる人かと思ったのに、背筋が凍りついた。…何? 「あぁ、飯田ね。」 訳知り顔で頷く、羅弥。…ヒデ?? 「ヒデが、何よ?」 「…男がいる女に幸せだとか言われたくねー、って言ってんの。」 麗菓は冷たい瞳で私を見た。私は思わず大きく首を振った。 「違う!私は、ヒデとはそんな仲じゃないってば!!!」 「ふぅん、そうですか。オメデトウ。じゃ、じゃんけんしようよ、羅弥。」 私の言うことを流す、麗菓。私はだんだんイライラしてきた。 「待って、麗菓。」 もう少しで麗菓に殴りかかろうかと思ったとき、いつもは大人しい璃舞が口を開いた。今度こそ、私の味方に? 「そんなことしなくていいじゃんか。」 「璃舞…」 私は璃舞をじっと見つめた。かなりほっとした。璃舞は、羅弥のお気に入りだからだ。璃舞が言えば、きっと羅弥も。 「じゃんけんなんてしなくても、もう外す人は決まったじゃんか。」 「璃舞?」 「ただのゲームだって言ってるのに。1ヶ月もすれば仲直りするだろうに。その為に選択式じゃなくてじゃんけんにしようって絽亜ちゃんが言ってくれたのに。だから、本当に外されるんだよ。」 璃舞は、誰に言うでもなく、淡々と言葉を紡いで言った。 「この人、もう駄目だよ。私たちとは考え方が違うよ。」 璃舞のかわいい高めの声が、今は悪魔の旋律に聴こえる。 「そうだね、璃舞。確かにじゃんけんの必要性なんてもう無いわ。」 羅弥が溜息と同時にそう言った。冗談じゃない!!! 「待ってよ!そんなの、アリなの?身に覚えの無いことでギャーギャー言われて、それで外されるなんて言われても、納得できない!!」 「身に覚えの無いこと?そうかもしれないね。でも、残念ながら納得いかなかろうが何だろうが私はオマエを許さないよ。」 麗菓がキツイ口調でそう言う。私は、愕然とした。 「何…で…」 「わからないんなら、もうお終いじゃない?」 「ってか、いい子ぶるのいい加減にしろって。ウザイ。」 麗菓の投げやりな口調に、羅弥の心底楽しんでます的な言葉。 「アンタら、何なんだよ!?人が必死に修復しようとしてンのにそれかよ!?納得できんに決まっとろうが!っざけんなーーーーっ!!!」 叫ぶだけ叫んだ。けれど、事態は何も変わらなかった。とにかく、一番麗菓がキレてるらしかった。 私は、別にいい子じゃなかった。 だけど、でも、5人の輪は崩したくなかった。 初めて出来た女友達だったから。 小中虐められ続けて、やっと高校で出来た女友達。 実を言うと、ヒデも中学時代虐められてた。だから私たちはは仲良くなった。虐められっコ同士だった。 だからお互いそれ以上の関係になろうとしなかった。だって、それは虐められていたという事実にドップリ浸かることになるから。 たった、それだけの関係なのに。傷を舐め合って生きてきただけなのに。 やっと出来た女友達には、そのせいで捨てられた。 私は、本当にいい子じゃなかった。いい子ぶってるわけでもなかった。 必死に守ろうとしたものも全て、駄目になった。それだけのことだった。 「もういいよ。外したきゃ外せば?アンタらなんて、そこまで固執するほどのモンでもないし。」 それが、私と4人の最後の会話。彼女たちは私のその言葉にけらけら笑っただけだった。 それから、地獄のような毎日が続いた…。羅弥たちはクラス全員を動かせるほどの力があった。私は、常にたった独りだった。けど、学校だけは休まなかった。毎日行き続けた。いつも一緒に帰るヒデに心配を掛けないためだけに。 キツイ毎日が過ぎて、やっと今、11月。今更、仲良くしましょうなんて言わないでよ。 私は、今までも、これからも、ヒデさえいればやっていけるんだからっ。 私は、ギッと麗菓を見つめた。 「今更、一体何の用よ?私にはアンタと話すことなんて無い!!」 麗菓はクスクスと笑った。 「言い方が、悪かったかな。仲良くしたいと思ってるわけじゃないんだけどね。…私、瑠那を利用しに来たのよ。」 「…は?」 利用しに?もっと悪くなってるじゃない。 「飯田君、今、彼女欲しがってるんだって?」 「え…だから何?」 麗菓が可愛らしく笑った。 「だぁら、私が彼女になってあげようって言ってるんじゃんか。取り持ってよ。」 なるほど。だから、利用しに来たんですか。そうですか。 「あの時は私がヒデと付き合ってるとか言ってたくせに。」 「だって、私あの頃から飯田君が好きだったんだもん。嫉妬に狂った女に正常な意見は難しいわよ。」 麗菓がまた可愛く笑った。…あぁ、これ、照れてるのか。 でも、麗菓は本当に可愛かった。肩先辺りまでのセミロングの髪の毛が、ふわっと揺れた。 「あの頃からって…」 あの頃は、入学してすぐのはず。 「一目惚れ、よ。アンタたち付き合ってないんでしょ?ならいいじゃない。取り持ってよ。」 「ヒデを人を外すような女とは付き合わせたくない!」 「なら、瑠那、また仲良くしましょうよ。」 にこっと笑う麗菓。よくも今更そんなことが言えるな…イイ性格してるわ本当に…。 可愛くなかったら、何十人もの人間に殺されてるかもしれない。 「無理に決まってるじゃない。やめて。」 私は麗菓を睨みつけた。 「じゃあやめるわ。」 私は拍子抜けした。麗菓の性格なら、意地でも私を味方にするかと思ったのに…。 「じゃあ、こうする。…私、ハッキリ言ってアンタの助け無しに飯田君と付き合う自信あるわよ?もし、私が飯田君を瑠那の助け無しに落としたら、何があっても瑠那と喋らせないようにする。けど、もし瑠那が協力してくれるって言うんなら、仲良し5人組の復活と、クラス全員のシカトを解いてあげるわよ。どう?」 呆れた。麗菓の性格は変わってなかった。何が何でも自分の思うとおりにする。これじゃ、脅しじゃない。流石、5人衆一の悪女と呼ばれた女。羅弥よりもある意味強い。 今、私がどれだけヒデがいなくなったら困るか、コイツはわかってる。わかってるからこそ、それを使ってきた。 「…断れない、ってわかっててそう言うのね…」 「当たり前じゃない。」 にこっと笑う、麗菓。 私の悪夢の始まりだった。 コメント: 2003.08.22.UP◇■ 間開きまくり、キャベツの恋です。意味わからん方向に話進んできました。 瑠那の性格変わってるし…(オイ) リク、沿っていけるんでしょうか?(訊くな) な、なんとかしなくては…。。。 |