「ってわけで、今日から3人で帰ろ?」 麗菓に仲良くしようと言われたその日、私は麗菓に無理やり脅されて、3人で帰ることをしぶしぶ承諾した。 「別に俺はいーけどよ。麗菓さん…は、いぃんか?」 「いいから、一緒に来たの。ねね、本当に私邪魔じゃない?」 上目遣いでヒデを見つめる麗菓。こりゃ可愛いわ。私が頼む必要もなく、ヒデの鼻の下は伸び切ってた。 「ってことは…え、本当に?」 「うんvv」 ハート飛ばしまくりの麗菓。170cm後半のヒデと155cmぐらいの麗菓は、背的にも綺麗につりあってた。私じゃ160チョイだから微妙なんだけど。 「ぅわ〜…」 ヒデが口元を押さえて、麗菓から視線を外した。 「どしたの?」 麗菓に聞こえないように私が聞く。 「…ん、なんてか、めっさ嬉しいわ…俺。」 「え?」 「…いや、なんもない。さ、帰ろーぜ!」 何か気になるものがあったけど、その日はそのままはぐらかされた。私の胸の奥で何かがコトリと動いた気がした。 まさか?いや、そんなこと、あっていいの? 私は、死んでも麗菓とヒデをくっつけてやんない。絶対嫌。ヒデには、もっと普通の女の子が…いいのに。 麗菓なんて、麗菓なんて、麗菓なんて…やめてよ!!! 顔が可愛いだけじゃない!?あんな心ブス。絶対やめて。何があっても壊してやる。 『可愛い子だったでしょう(^▽^*)』 『ああ かなり驚いた』 『どう?あの約束は。果たせそう?(''?) 『余裕 今度また説明する じゃ』 …あれ?あれれ? 急にメールを切られて、なんだか…期待はずれっていうかなんていうか。いや、期待はずれなんだけど。 今日、返信も遅かったし。…他の誰かとメールしてた? しかも、"今度説明する"って何? まさか、…まさか、麗菓…? 胸が苦しかった。何でだろう。どうしてだろう。麗菓のことを考えれば考えるほど、苦しかった。 今まで味わったことなんてなかった。何これは。何なのこれは!? もう、駄目だ…。ねぇ、ヒデ…助けて… 「…ハヨッ!」 「ぅあっ。」 「ぅあ、って酷いわね。せっかく朝からこの葉月麗菓が挨拶してやってンのに。」 「あんたねぇ…」 思わず手を振り上げた私の肩をがっと掴む麗菓。私は面食らって動けなかった。 「まぁまぁ、落ち着いてよ。昨日はありがとネv」 …麗菓はそれだけ言って、自分の席に戻って行った。よっぽど、よっぽど機嫌がいいらしい。 まったく…どうしたもんかねー、何となく、憎めないんだよね。憎いんだけど。何となく。 可愛いからかもしれない。それか、それが麗菓の性格なのかも知れない。だけど、だけど… ヒデとはくっついて欲しくない! だけど、麗菓はそんな私の気も知らずに、楽しそうにクラスの女の子と喋っていた。…けど。 あれ?羅弥たちとは、喋らないの?…どういうこと? 明らかに、羅弥と麗菓の間に溝が出来ているように見えた。知っていて、お互い視線を合わせない。 でも、羅弥の周りにはいつもの如く、絽亜と璃舞がいる。私たちの…仲良しグループ5人の、大元。 もしかして、麗菓も外されたの―――――? 「おはよう!」 なんて考えてたら急に背中を叩かれた。私は驚いて振り返る。…と、同じクラス、かつ今は私の後ろの席の女、かつ男好きの赤根眞保(あかねまほ)がいた。 「…今まで、本当ゴメン。瑠那のことキツそうだと思ってたけど…羅弥たちが恐くて、喋れんかった。」 片手をぴっと顔の前に立て、頭を下げる赤根さん。意味がわからない。 「…れ?なんかしたんちゃうの?急に羅弥が昨日の夜、ウチらや…てか、クラスみんなにメール送ってきたんよ?『瑠那をもう外すな』って。」 「…嘘。」 「嘘言ってどうするんさ。少なくともウチらんグループには来たよ。それに、今日も朝麗菓と喋ってたからてっきり修復したんかと思ってたんやけど。」 どーいうこと?やっぱり、麗菓は羅弥に頼んでくれたってことだよね。でも、じゃあ、さっきの様子は何なの? まさか、麗菓、羅弥グループと離れることを条件にして、クラスの人たちを戻してくれたとか、無いよね…? ってアレ?確か、私たち5人グループも元に戻るんじゃなかったっけ。そうだよ、そうじゃんか。 「ウン、仲直りした。もう、本当…ホッとしてるよ。」 「よかったなぁ、本当。これからは、普通のクラスメートに戻ろな!本当、ゴメン。皆こう思っとる。」 「ありがとう。とりあえず、私羅弥たちんとこ行って来るね。」 それだけ言って、にっこり笑ってる赤根さんと離れる私。どういうことなのか。そんなん確かめる手は一個しかないでしょ。 私は羅弥の元へ、歩いていった。急に教室の地面が柔らかく感じた。ふねふねして、落ちそうだった。けど、歩いた。 息を吸い込む。 「…羅弥。」 話し掛けた。半年振りに。話し掛けた。ドキドキしてる。羅弥が顔をあげる。綺麗な顔。厳しい瞳。また、あの時みたいにキツイ態度取るの? …羅弥は、ニッと笑った。 「ごめんな、瑠那ぁ。」 涙、出そうだった。 こんな簡単なことだったんだ。 こんな、これだけで。 ただのゲームだったんだ。 私の半年は。 あの苦しかった半年は、もう終ったんだ。 「ごめんじゃすまないよぅ…」 「本当に、ごめんね。私からも言うね。…あの時、自分が外されるのが怖くて…。自分以外なら誰でもいいやって感じだったの。」 璃舞が目じりを拭いながら、言った。あぁ、皆一緒だったんだよ…ね。 「だから、少し麗菓ちゃんに反感買ってた瑠那ちゃんがいなくなっちゃえば、私はずっと羅弥ちゃんの側にいられるって…本当、最低だよね。」 「ううん、しょうがないよ。誰だって、自分が一番大切に決まってるんだから。」 私の言葉に璃舞が少し動きを止めたような気がしたけど、きっと気のせいだろう。 「私は、謝らない。あんたを無視したわけでもないし、あんたがいなくなることを薦めたわけでもない。」 絽亜が言った。絽亜の言葉は、何も間違ってなかったから、私は無言で頷いた。 「誰も、瑠那が嫌いで外したヤツはいなかった、ってコトだよ。ゲームはそういうもんだ。終れば、全部なかったことになる。」 羅弥が立ち上がる。すると、私の右肩に後ろから誰かの手が置かれた。 「?」 私が不思議に思って後ろ見ると、そこには麗菓がいた。 「そーいうこと!ね、仲良し5人組、復活しようよ。」 麗菓の顔。めちゃくちゃ可愛かった。4月、入学式で見た瞬間、「この子は絶世だ」そう思った、あの顔だった。 涙が出そうだった私は、もうこらえきれなくなって、流した。 泣けて、泣けて、泣けた。 辛かったんだから、どうして、あのときに言わなかったんだろう。どうして、一緒にいたいって言わなかったんだろう。 そして、今日も麗菓と羅弥の仲が悪くなったかも、なんてどうして思ったんだろう。 こういう思考回路が、私の全てを邪魔してたんだ。 「ありがと…麗菓。」 「ん?何?」 「ありがと、ってば。」 「どいたましてvv」 麗菓がにこっと笑う。羅弥たちも笑っていた。絽亜だけが無表情で見つめていた――っていっつもこの子は無表情か。 「これからは、絶対にあんなゲームしないでね。」 「しないって。あの時は暇でしょうがなかったからしたの。けど、今は面白い玩具があるから?」 羅弥と璃舞が麗菓の顔を見つめて、ニヤニヤ笑う。 「え…麗菓…?」 「あの時から麗菓の好きな人が飯田偉人だってこと知ってればね〜。」 「そうそう、麗菓ちゃんってば水臭いんだもん。瑠那ちゃんに協力をもらってから私たちに言うなんて!」 「もう、2人とも!やめてよ。私は、彼に全てを注ぐつもりでいるんだから!!!」 羅弥と璃舞が笑い合う。 「ぅっひゃー!"彼"だって!」 「もうラブラブですね♪」 「違うって!今のはただの3人称単数!!!」 私を振り回しまくった麗菓も、羅弥にかかればただの女子高生に過ぎなかった。 ほら、これよこれ。私が求めていたのは、この5人の空間。何となく4月からウマがあって、一緒にいたんだから。 絶対に、うまくいくはず。 「もう、からかわないでよ!私は、ただ飯田君が好きなだけなのに!!!」 麗菓の叫びが木霊する。全く、麗菓は…。何て私が失笑していたら。絽亜が私の後ろを見て、 「あ。」 と声を上げた。皆、私の後ろを見た。私も後ろを振り返った。 「あ。」 「あ。」 「あ、ヒデ。」 青ってか、赤ってか。そんな色に麗菓が変色していくのが横目に見えた。ヒデは、普段より大分顔が赤いように見えた。 「…今日、帰り、友達が俺んち来たいっていうから先帰っててくれ――って言いに来たんだが…」 チラッと、麗菓の顔を見るヒデ。 「ありがとう。俺もだから、もちろん。」 ヒデの顔がみるみる真っ赤になっていく。 ……え?どういう、こと? 「ごめんな。ってわけで、今日は帰れんので瑠那と帰ってやってくれ。」 ……ヒデ? 「ルナァ、俺、ちゃんと彼女出来ただろぉ?」 「え?どういう…」 「だぁら、俺がお前に啖呵切ったあと、2,3日してから麗菓さんに告ったんだわ!んで、昨日お前と来てくれただろ?OKの返事だった、ってことだ。」 「じゃあ、本当に…」 私の"まさか"じゃなくて、これは現実? 「あぁ。本当に彼女作ったぜ?へへん、俺が本気になりゃこんなもんよ!ずっと憧れてた麗菓さんだぞ!」 「ヒデ、麗菓に憧れてたんだ…」 「もちろん。夏に見かけてから、ずっと。」 麗菓の顔の青さがあっという間になくなって、赤だけになっていく。 何なのこれ。私の協力なんていらなかったんじゃんか。何もしなくても、もうヒデの気持ちは…… 麗菓にあったんだ。 「…そう、よかったね…」 「ンだ?お前、今日シオラシイな。どした?」 ヒデが私の顔を覗き込もうとした。やめて、やめてよ。私が泣いているのは、羅弥たちとまた一緒にいられるからなんだから…。 そのとき、都合よく予鈴が鳴った。 「ホラ、行かないと!予鈴だよ。わかったからさ!」 わかったからさ!わかったからさ! 貴方が麗菓を愛しているということは。 私の居場所がなくなったということは。 コメント: 2003.11.09.UP◇■ さらに間開いてるよ、キャベツの恋。 何だかんだでお話始まってますのでね。うん。 この話は10話以内に完結します。絶対。 |