暇。 物凄く暇。 日課になってたヒデへのメールもなんとなくできず、私はぼーっとしてた。 だって、やっぱり彼女持ちの男が他の女とメールするのはまずいでしょ。 いくら、その女に恋愛感情を抱いてないとはいえ。 「あーっ!やだやだっ!」 私はひとり、ベッドの上でバタバタした。 何でこんなにめそめそしてんだ?いいじゃん、親友に彼女が出来たってこと。 もっと喜ぶべきなんじゃない?何でこんなにしょげてるんだよっ。 ヒデに対して、おめでとう、と言ってあげるべきだったのに。・・・なんでできなかったんだろう・・・。 麗菓の顔がぐるぐる笑う。ソフトウェーブかかったセミロングがふわっと揺れてる。 麗菓の顔がぐるぐる笑う。ヒデが嬉しそうに笑う。 皆が祝福してる。璃舞が。絽亜が。羅弥が。 皆が笑う。 「ッ!!」 私はベッドから飛び起きた。財布を掴んで、階段下りて、玄関で靴を履く。 「瑠那?」 「ごめん、ちょっとジュース買ってくる。」 台所から出てきて心配そうに聞くお母さんに、私は素っ気無くそう答えた。 「そう。早く帰ってきなさいよ?もうすぐご飯だから・・・」 「うん。大丈夫。」 家の中に居たら、私はこのまま壊れてしまいそうだから。 「じゃあ、行ってきます。」 だから、少しだけ外に行かせて。 「ふぅ。」 家飛び出して、近くの公園の自動販売機で烏龍茶を買った。 公園のベンチに座って飲んだ。 冷たくて、ほろ苦くて、おいしかった。なんだか気分も少しすっきりしたかも。 ポケットのケータイを見る。何の着信も無い。 …、私からメールを送れなかった日は、ヒデからいつも送ってきてくれたのに。 今日は来てない。 やっぱり彼女が出来たから?麗菓がいるから?私はもう必要ないの? 何で?私はヒデにとっての――親友じゃなかったの――? 「あ、そーか。」 わかった。 何でこんなに辛いか。 私は、親友のヒデが麗菓にとられちゃった気がしてたんだ。 だから、こんなに淋しくて、切なくて、悲しいんだ。 わかった。 私ははぁ、と溜息をつくと立ち上がった。いつまでもここにこうしてるわけにはいかないもんね。 お母さんに心配かけちゃうし。 ――あのときみたいに。 でも、まっすぐ帰る気がしないで、少しだけ遠回りした。 人が多い道を歩いた。 私、人ごみって凄い好き。雑踏の中、ぼーっとしてるのが大好き。 ざわざわざわざわ、世界が揺れてる中、私だけがずーっと止まってるの。ずーっと。 そんな私がいつも通り人ごみの中、ゆっくり歩いてた時だった。 「…あれ?」 見覚えのある姿。 「璃舞、じゃんね…?」 でも自信が無かった。何でかって言うと、いつもの璃舞からは考えられない姿をしてたから。 胸のがーって開いた服着て、上からジャケット羽織ってて、それで下はもう少しで見えそうなぐらい短いスカートに、ほっそいブーツ。 全身シックに黒で決めてるんだもん。私らの中で一番そういうカッコをしそうなのは羅弥だけど、一番しなさそうなのは璃舞。 …?どしたんだろ? 「璃舞ぁ!」 私は璃舞に声をかけた。でも、人々の雑踏で消されてしまった。 「あー・・・もうっ。」 イライラする〜。人ごみってこういうときは不便だよね…。 「璃舞!!」 私はもう一度声をかけた。でも、璃舞は気付かない。あーもう!気づけぇええええっ!! 「璃舞―っ!!」 璃舞は、気付かなかった。 そして、側にいた男に話し掛けた。 男は顔見知りの様子で、璃舞と楽しげに話している。 しかし、その男もなんてか、ねー。髪の毛は金色に赤が入ってるし、服はランニングにだふーっとしたズボンだし。赤紫っぽい色の。もう秋…ってか弱冬なのに、寒くないのかなー…。 そんな私の考えをよそに、璃舞はその男と一緒に店と店の間にある階段へと入ってった。 「璃舞?」 私は慌てて駆け出した。 その階段は、地下へと続いてた。私はふと上を見た。そこには、『Ruby』って書いてある。 「ルビー?」 なんか聞いたことあるなぁ。誰が言ってたんだっけ? あ、そーか。羅弥だ。羅弥が言ってたんだ。入学したすぐの頃。一緒に行かないかって… 『メジャーデビューしてない奴らでも、いい曲作るやついっぱいいるんだ。だから、行かね?ライブハウス、「Ruby」!!』 !!!!!!! そうだ!ライブハウス!!! ってそーか、だから璃舞もあんなカッコしてたのか。 でもあの羅弥が誘った時、一番嫌そうな顔したの璃舞だったのに。意外だわ、ホント。 私はそーっと階段を覗き込んだ。 中はちょっと暗くて、どうなってるか見えなかった。 「コワっ。」 私はちょちょ、っと駆け足で遠ざかってみてから、また家に向かって人ごみの中歩き出した。 だって、別にライブ見たいとか思わないし。 怖い思いして単身乗り込んで行く気なんか何にも起きないもん。とっとと帰ろ。 でも、なんだか璃舞の意外な一面発見!っていう感じだった。 そうだ。人って、見た目だけじゃ何も判断できないんだ――。 ヒデの気持ちとか、私が……考えるようなモノじゃなかったんだ。 私のことを一番の親友と思ってくれてる、っていう…馬鹿みたいな、自惚れ。 なんて、今の状況をなんとかヒデと結び付けようと頑張っていた。 独りじゃ淋しすぎて。 *** 「あ、あれっ……」 ぼーっと歩きながら、色々考え事してたら、気付けばヒデの家の前だった。 「私、馬鹿……。」 そうだ、いつも何かに辛くなったらヒデの家に来てたんだ。そして夜まで飲み明かしたり…とか。未成年だけど。 今じゃもう…彼女のいるヒデに…そんなこと、できるわけない。 でも、でも……。 独りじゃ、もう、無理だよ―――――。 私は独り、膝を抱えて蹲った。ヒデの家の前で。 「あれ、瑠那ちゃん?」 声がかかったのは、それから間もなくだった。 私が顔を上げると、そこにはヒデとそっくりな顔をした人――そう、ヒデの2コ上お兄さん、千寛さんが立っていた。 「どうしたの?」 優しい、声。いつもこの人はそう。私が何か泣いてると、ヒデよりも…ずっと、助けてくれた。 どこからの帰り道だろうに。家に入りたいだろうに。私のことを無視しなかった。 「千寛さん…」 ずっと、涙は我慢してた。 流したら、もう駄目だと思ったから。 それか、何か他のもののせいにしてた。 認めたら、もう駄目だと思ったから。 でも、もう限界だった。 「瑠那ちゃん?……泣いてるの…?」 千寛さんの戸惑った表情。私は千寛さんの胸に飛び込んでいた。 千寛さんは拒絶する風もなく、理由を聞くでもなく、そっと私の髪を撫でてくれた。 少し寒くなった初冬。なんだかやけに温かかった。 コメント: 2004.05.03.UP◇■ シリーズ化(?)することにしたキャベ恋。 ついに飯田千寛君登場ーッ! なんか名前聞いたことあるって思ったアナタは凄い。 |