++DREAMERS 〜REASON2〜 ++ 【2】
「…マジすか。」
森脇君がずれた眼鏡を押し戻した。
「マジじゃなかったらなんなんですか。」
私は微妙な表情で返事をする。
「ありえねぇ…5科目で496点とか…ありえねぇ…」
「でも、取ってしまったんだからしょうがないでしょう?」
「すげぇ…僕なんて塾まで通ってるのに、5科目450点台…。」
私の答案用紙を持って、森脇君はプルプル震えてる。
なんだかなぁ…。
このテストは、夏休み明け宿題テスト!
まだ中2だし。そこまで難しくないんだから全部のテストで100点とっていいぐらいだと思うんだけど。
…でも、数学で計算間違いしちゃってマイナス4点。残念だった。
まぁ、取り敢えずその答案を、森脇君は握ってワナワナ震えてるわけ。
「待てよ…これぐらいよかったら、1位じゃないか?確か、宿題テストは上位30人張り出されるんだよな!」
「ありえませんよ。4点も落としてるじゃないですか。」
「4点、"しか"だろ?凄いものの考え方だな。」
「…私の親が、そうでしたから。」
私はそう言って笑って見せたのに、森脇君は黙り込んでしまった。
私の親は、完璧主義者…だった。
とくに父さんが物凄く完璧主義者だった。
父は弁護士で、ちなみに東大を出ていた。高校に入ると流石にテストで満点は難しくなってきて…
それが、どうも嫌いだったようだ。だから、私には高校でも満点取れるように…という指導を小学校の時から、していた。
母さんも似たような感じの人だった。そう、あの頃はキツかったけど、遣り甲斐があって楽しかった。
あの頃は…。
「藤野の親って…。いや、何でもない!」
あ、森脇君も知ってるんだ。私の親のこと。別に気を利かせる必要ないのに。
っていうか、むしろそれの方が、嫌。
そのあと、無言で森脇君は私に答案を返してくれた。
その日はそれ以上喋らなかった。
「う〜ん…大分、音は出るようになってきたけどね…」
真理奈ちゃんのお母さんが首を捻る。
あれから1週間…私は、毎日真理奈ちゃんの家に通っていた。
「なんか違うんだよね〜。何が違うんだろ?もっかい、やってくれる?」
ごく簡単なエチュード。それさえ音を出すので精一杯。
「でも、1週間でここまで弾けるって凄いな!」
「凄いな、恵理子!俺たち、絶対もっとかかってるぜ!」
弟君2人。髪の毛の立っている方が、東充紀君。私のことを恵理子って呼ぶ方。
髪の毛がちょっと長い方が、東達紀君。私のことは恵理子おねーちゃん、って呼ぶ。
どうして髪の毛の特徴を書いたかというと、そうでもしないと見分けが付かないから。
お恥ずかしながら、全く違いがつきません…。
にしても、私は、初めてにしては驚くほどの上達ぶりらしい。
…けど。たった1週間。されど1週間。
私は、寝る間も惜しんで毎日毎日練習していた。
1週間もあれば…これぐらい。練習が、出来れば…これぐらい。
「発表会までは、あとどれぐらいだ?」
「あと、6ヶ月。このペースなら、本当にいけるわね。凄いわ、恵理子ちゃん…。」
「本当にな〜。よっしゃ!私も一緒にやるよ!」
「あんたは、自分の練習してなさい。急がんとぽっと恵理子ちゃんに抜かれるべ?」
「あいあいっ。」
真理奈ちゃんは端っこで弾き出す。
あぁ、私もあれぐらい弾けたら…。
「ごめんな、じゃ、もう一回。」
「はい。」
同じ曲をまた弾く。
何回弾いただろう…。わからない。
耳に残る音階。短調なリズム。
あっ…間違えた。
「間違えても止まらんでえぇから。どんどん行って。」
「はい…でも…」
「なんてーかな、恵理ちゃんは完璧を求めすぎなんよね。そんなことしなくていいから。今は、自分のもてる力を伸ばす。それでいいんやから。」
「…はい。」
ちょっとバイオリンを首から放して、一息。
「でも、本当にバイオリンやるの初めてなん?」
「え、…はい。」
「なら、うますぎるわー…本気な話。」
真理奈ちゃんのお母さんはそう呟いて、にこっと笑いかけてくれた。
私も、笑い返した。
本当のことを言うと、初めてじゃない。
もっともっと小さい頃。
お父さんとお母さんと私の3人で幸せに暮らしてた頃。
私は、ピアノもバイオリンも水泳も書道もバレーも絵画も英語も習ってた。
毎日『お稽古事』で忙しかった…忙しすぎたけど、充実してた。
…あの日までは。
今日のレッスンが終わって、最近恒例になってきた東家との夕食。悪いなぁと思いながら、この家族の押しにいつも負けてしまう自分がいる。
わいわい皆が騒いでいる中、食べていたら、真理奈ちゃんが話し掛けてきた。
「な、恵理子〜。」
私、思わず箸から胡瓜を落としてしまった。
「何ですか?」
真理奈ちゃんは、悪戯っ子のような顔付きで、にまっと笑った。
「今度、どっか遊びに行かねぇ〜?カラオケあたり。」
「カラオケ…」
私は思わず言葉に詰まる。
「嫌?嫌だったらいんだけどねっ。よければ、って。」
慌てて捲くし立てる真理奈ちゃん。あぁ、私が嫌がってると思うのか。
「いえ、そうじゃなくて…。私、カラオケって行ったことないんです。」
「な、ないの!?」
真理奈ちゃんは目を見開いて、驚いている。
「はい。親がそういうの嫌いでしたから。」
(親がいなくなってからは、ますます遠のいたけど)
ふ…とお父さんのことを思い出す。けど、すぐに振り払う。
「ふぅん…。じゃ、尚更行こうっ!」
ちょっと重くなった雰囲気。流石真理奈ちゃん…即、吹き飛ばしてくれた。私も、笑うことが出来る。
「いくらぐらい、掛かるんですか?」
「ん〜、1部屋1050円だからねー…525円っ!」
そんなに?
「ごひゃくにじゅうご…。…お断りさせて貰っても、いいですか?」
「え?」
真理奈ちゃん、わけがわからないと言った様子。
「私には、そんな余裕無いんです。」
首をぶんぶん振る真理奈ちゃん。
「え、めっさ安いが!何で?何で??」
「無理なんです。」
私は、にこっと笑ってそれだけ言った。
ごめんなさい、真理奈ちゃん。私に、遊びのためにお金を使え、って言う方が間違ってるんです。
私の家の余裕のなさ…きっと、誰も知らないんだろうな。
今までは友達なんて1人もいなかったから何も心配いらなかったけど。
…あぁ、真理奈ちゃんに悪いことをしてしまった…。
私は、かなりの罪悪感を胸に覚えたけど、真理奈ちゃんにもう一回頭を下げて、それで自分の中では解決しておいた。
そうしないと、ちょっとつら過ぎる。
遊べないことが辛いわけじゃない。誘いを断るのが、辛い。
そりゃあ下心があったりする誘いならなんとも思わないけど。真理奈ちゃんみたいに100%好意の誘いを断るのは、気が引ける。
どうしよう。
お金…欲しいな…。
コメント(作者(悠樹似卯)逃亡のため代理人):
2003.07.01.UP☆★☆
こんにちは。作者代理の藤野恵理子です。皆様読んでくださってありがとうございます。
今回、めちゃくちゃ更新が遅くなった理由を皆様に説明しようと思っていたのですが
作者が逃げてしまったため、説明できなくなりました。ごめんなさい。
なんだか私の暗いところや、過去を蒸し返す文章が多いのが気になりますよね。
これじゃあ私がただの暗い女みたいじゃないですか!全く…作者は何やってるんだか。(怒)
こっそりバイオリンの練習を、毎日やってるんですけど、アパート暮らしは辛くて。
隣から苦情来たりするんですよね。どうにかしなければいけませんね。
では、また次回も…期待しないで待っていてください☆以上、作者代理の藤野でした。
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