砂時計

−−−01

 

 
覚えているものがふたつある。
 
「……………………………………………………。」
「……………………。…………………………………………………………………?」
「………………………、…………………………。…………、…………。」
「…………………。……………、……………………………………………。」
「……………………?」
「………………。」
「……!?……………………、…………………………………………………………!?」
「………………。」
「……………………?」
「……………………………………、……………………………………。」
「……、………。」
「………。」
「……………………?」
「……、……………。」
「………………………………、……………………………………………!?」
「……………………。………………………………………?」
「………」
「……………………。……………………、………………………………………………………………。」
「………、……………」
「……………………………………、………………………………………………………?」
「……………。」
「…………………………。…………。……、……………………………。」
「……………、………………?」
「……?」
「………………、………………………………………………………………………?」
「……、…………………。……………………………………………………………………………。」
「…………………………………」
「………………………………………………。」
「……、………………………………!?」
「…………………………………。」
「…………、………………………?」
「………、……………。…………………。」
「………………、…………」
「…?」
「……、……。…………………………」
「…、……………………………………………。」
「……………?」
「…………………………………。………………………。」
「…………。」
「……、……………………。………………。」
「………、………………………」
「………、……………………………………………。…………………………………。」
 
「………………………………………………………。
 
 
  ………………。……………………。―――――……、…。」
 
 
 
彼らのことを思い出そうとすると、いつも同じ光景しか思い浮かばない。しかも何を言っていたのかが全然思い出せない。だが、彼らが誰なのかはわかる。
俺の、両親だ。今だって見ればすぐに彼らだと気付く自信がある。…会ったことは全く無いが。
 
…もうひとつ覚えていること。
それは………………蒼い、液体。
それが何なのかはわからない。ただ、眼前に広がる蒼を覚えている。
 
 
 
………そして、俺はそれ以外に記憶を持たない。
自分の名前も、何も知らない。
俺は、誰だ…?
 
 
 

 
 
ぼうっと、横にある灰色の壁を見つめていた。家の中を見えないようにするその壁。
しかし、俺はなぜかそれに恐怖感を覚えた。
此処は、何処だ?
 
気が付いたら此処にいた。自分がどうやって此処に来たのかもわからない。どうして此処にいるのかもわからない。
どうしてこんなに傷だらけなのかもわからない。どうしてこんなに息が乱れているのかもわからない。
 
ただ目的もなく徘徊していた。腹が減ったらその辺の草を食べた。周りを歩く人間の視線も気にならない。俺は、そういうものを気にする感覚が欠如しているのかもしれないとすら思えた。
ただ生きていなければいけないと思った。たまに食物をくれる人間がいた。ありがたく頂いた。
 
あるとき、服をくれた人間がいた。
俺はよくわからない白い服を着ていた。まるで白衣のような。
その人は、俺ぐらいの年齢の人が普通に着ていそうな服装を持って来てくれた。なぜだか俺にはそういう知識はあった。その服をありがたく頂いた。
服をくれた人間は、俺に今すぐ着てくれと頼んだ。断る理由もなかったので俺は服を着替えた。洗ってきてあげようか、と俺の着ていた服を手にとり、その人間は顔を顰めた。何か数字が書いてある。首を傾げた。…12?ぽつりと呟いた言葉に心臓が痛いぐらい波打った。
何、12って…とその人間は笑ったが、俺はそれ以上その言葉を聞きたくなかった。欲しけりゃ服ぐらいやる、と言ったのだが洗ってきて返してくれた。
この12って何だろう。服のサイズ?12号とかあるの?
 
 ぐ  さ  り
 
“ジュウニゴウ”。
何だ、それは……
何だ、その言葉は……
どうしてこんなに聞き覚えがある?
 
 
 
 
きっと、それが俺の呼ばれていた名前なのだろうと気がつくまでにかなりの日が要った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺は、“12号”と呼ばれる者。
覚えているものがふたつある。
両親のこと、眼前に広がる蒼。
どうして此処にいるのかは何もわからない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
1.
 
ハァ。オレは大きく溜息ついた。今日も一日、キッツイ練習で過ぎてったなぁったくよぉ…なんて考えながら伸びをする。
映画俳優までの道のりは辛いなー。つか、もうオレも17歳なんだ。今の地球の法律では18歳にならないとお金をもらって、公の場に出ることは許されない。だから、映画に出るのは必ず18歳からじゃなけりゃ無理。エキストラとか、金を貰わない上にそれでも割りに合うような仕事だったらいいんだけどね。
何でこんな法律できたかって言ったら、あまりにもテレビとか映画とかで児童に対してめちゃくちゃな行いをするのが増えたからなんだけどさ。
 
生まれて物心付いた時から「絶世の美男子」、「神が生んだ奇跡」(言いすぎ?)と言われて育ってきたオレが、映画俳優を目指さないわけがなかった。だから、劇団に6歳の時から所属して、ずーっと毎日トレーニングしてきてる。舞台と映画は違うとか言われそうだけど、でも基礎は同じだし。それにオレは舞台も好き。あの一発本番の雰囲気と一気にくる達成感が何とも言えねぇーんだよなぁ♪舞台しながら世界を周りたいっていうのも、叶えられるのなら叶えたい、オレのでっかい夢のひとつ。
 
オレは自分の自慢の蒼い髪をかき上げた。オレは自分のこの髪を非常に気に入っている。同じ色合いなんて見たこともない。オレだけの髪。ふっ…それこそ奇跡の賜物だなっ。町を歩けばオレの顔と髪に誰もが振り返る。ちなみに親は両方ともこんな色じゃない。……何でこんな色なんだ?その辺はよくわからないけど。まぁオレの顔に似合ってんだからアリだろ。
 
劇団は「劇団ノリア」という名前で、とある有名劇団が分裂した後の有名どころがいない方の片割れ。いや、確かに姉妹劇団とも言うべき「劇団マグ」の方が有名人の輩出は多いし、レッスンの質も高いって話だけど、……お値段も高くなっておりますので。オレは親と相談した結果、「劇団ノリア」に所属することにした。まっ、オレの顔と才能さえあれば劇団なんて何処でも羽ばたいていけるしな♪
毎日学校が終わってから通ってる。時間がないときも発声とストレッチだけは必ずやりに行く。毎日の積み重ねが本当に大事。
気が付いたら、この「劇団ノリア」では自他共に認めるエースになっていた。明らかにオレが出る舞台は活気付く。当然の結果なんだけど、やっぱりそうなるまでは時間がかかってしまった……。でも、そうなってからは非常にやりやすかった。何時の間にかオレの舞台の固定ファンまで付きだした。何て言ったって、映画界に非常に近い劇団なわけだから、誰もがまぁまぁの顔はしているのだが、やはりオレだけぴか一だったのだ。モテる男はつらいな…♪
 
だが、そのオレにも解せないことがある。
どうして“ファンの女の子”はたくさんいるのに彼女はいないんだ!?オレがちょっと見つめれば落ちそうな女の子だらけなのに、気が付けば他の男と付き合ったりしてる。オレの何が悪いって言うんだろう…。
だから、決めた。
 
絶対に、落とせそうな女は拒否しないと!!!
 
くっそぉお〜、今までやっぱり焦らしすぎたか…。
 
 
ま、オレに見合うような女がいなかったっていうのも事実だけどな!
そうだなー、やっぱり今流行のウェーブのロングヘアかな♪あのふわふわした淡い感じがたまらん!色は桃色とか、橙とか、白っぽい金とかが気に入るなぁ。雰囲気を壊さないのがいい☆オレが蒼髪だし、きりっとした男とふわっとした女でうまく調和するだろ?うんうん、かなりいいカップルになりそうだ♪
あ、でも巷に出回ってる“薄化粧に見える厚化粧”だけはやらないで欲しいね…。落とした後、本当に…本当にガックリ来るんだよ。胸パッドやヌーブラぐらいうぜぇ。っと言えば、体型は普通に生身で欲しいよなー☆きゅっとくびれた腰だとか、はちきれんばかりの胸だとかは、やっぱり……なぁ♪♪
あ、美形なのは最低条件な!それでいて、ちょっとモジモジしたりとかさー、「あ、あのぅ…」みたいな話し掛け方してくるのがいい♪うるうるした瞳で上目遣いで見つめられた日にゃー、もう……!!
あ、いかんいかん。こンの妄想癖、やばいな…
美しい男は常に爽やかじゃなきゃいかんのだ!
 
まぁ、自分の内面を外に出さないことには、自信あるけどね。
どっかにそんな女いないかー…?……なんか、いなさげ。
 
♪ 2話へ〜っ ♪
 
 
 

♪2005.03.17.アップ♪
さて、2日遅れとなってしまいましたが始まりました「水桃砂時計」☆
まぁこれは趣味とノリで書いてる、軽い連載ですので、
何だか始まり方はシリアスだったけど楽〜に読んで下さいねv
 
 
 
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