VAIO02


「VAIO」―――――発明したときは、世界中が歓喜したもの。
まさかそれのせいで・・・人間が絶滅の危機に追い込まれることになろうとは、その時、誰が想像しただろう。
少なくとも、俺は心の片隅にも思わなかった。
「VAIO」―――――「Victim Appointment Immediate Occupation」の略称。
Victim・・・犠牲者,Appointment・・・約束,Immediate・・・即時の,Occupation・・・職業。
つまり、「犠牲者にすぐ職業を与えることを約束する」とう意図でつけられた名前だった。
そして、韻を「Biotechnology」・・・バイオテクノロジー、に似せた。
職業は・・・すぐに手に入った。だが、すぐに失った。
仕事仲間ももちろん「VAIO」の毒に殺されたからだ。
俺の仕事場にも「VAIO」感染者が入ってきた。
その時は、誰もまだ「VAIO」が悪いなんて気が付かなかった。
同じ会社だったが、そいつは外回りで、俺は中の事務系専門だったから、特に接する機会はなかった。
外回りの奴らがみんな死んだ。
その中に・・・俺の親友もいた。
親友は、瀕死の状態で、会社に運ばれてきた。
他の十数人の毒患者と一緒に。
俺は慌てて駆けつけた。
医学の心得のない俺でも、一目でもう、死ぬことがわかった。
白い顔・・・吹き出る汗・・・青い口・・・呼吸の乱れ・・・虚ろな目・・・
痙攣する体・・・冷たい手・・・硬い肩・・・そして何より、その苦痛に満ちた表情・・・
何もかも、正常な人間じゃなかった。
それでも俺は、親友を抱き起こした。
「大丈夫か?大丈夫か?」
大丈夫じゃないことをしっかり見て取れても、それを繰り返すしか俺にはなかった。
「あぁ・・・大丈夫だ・・・」
親友の口から出てきたのは、いつものでかい声のこいつとは思えないほどのか細い声。
やっと搾り出して、出てるといった感じのその声に俺の全身に鳥肌が立った。
怖かった。
どうして人間がこんな風になってしまうのかと思うと怖かった。

―――――そして親友は死んだ。

親友の最期の言葉は、
「妻を頼む―――――」。
悲しかった。
どうして親友がそんな目に合わなきゃいけないんだ?
奥さんに子供が出来て、4ヵ月後に生まれる、って話だったのに。
今死んでどうするんだ・・・!?
いくらなんでも、ひどすぎる・・・。
そのときの俺にはそういった感情が湧いた。
今は、「VAIO」の毒で死んでゆく人間を見ても何も感情は動かない。
それを正常として認めてしまったから。
一時は70億とも言われた人口は、もう30億あまりに激減している。
一体いくつの国が壊滅したのかわからない。
地球連合政府も、もう何もできない。
おそらく・・・「VAIO」を今、全滅させることができるのは、俺だけだろう。
だが、俺は「VAIO」を滅亡させる気は、全くない。
「VAIO」感染者隔離施設に入ってきた「VAIO」感染者は、
最初こそ物も言えないほど精神が崩壊しつつあるが、ここに入り、
同じ境遇のものと触れ合うことで、笑顔が戻る。
正常な人間たちよりよっぽど生きる活気がある。
正常な人間が滅亡すれば、逆に今度は「VAIO」感染者が"正常な人間"になるんじゃないのか?
隔離施設に勤めて5年、俺は少しそう思うようになってきた。

「じゃあ、こいつらが今回の『VAIO』だ。」
政府の人間の言葉。
ここは政府の客室。いるのはもちろん俺とその政府の役員だけだ。
その政府の役員が指差しているのは「VAIO」感染者の写真。
ざっと見たところ、13人の男女。11人が男、2人が女だ。
「最近・・・男の方が『VAIO』によく感染しますね。」
「・・・そう言われれば・・・」
そんなことも気が付かなかったのか。
年だけ食って、こいつらはなんて無能なのか。
俺は半分呆れながらも顔には全く出さなかった。
「解明の即急を要求します。」
あくまで事務的な俺の声。
こいつらと話してるとイライラしてくる。
「ああ・・・。で、尋ねたいんだが、これで『VAIO』の奴らは何人目だ?」
「隔離施設にいるだけで6452人、この13人を入れると6465人です。」
「おかしいな・・・」
「何がですか?」
半分投げやりな俺の声。
早くこの場所から出たい。こいつらの文句付けほどうまいものはないから。
「『VAIO』は出回っているのは5000体のはずなんだ。」
「・・・え?」
「隔離施設に入ってるだけでもう5000体は越えているから、おかしいと思って・・・」
ンな大事なこと・・・なんで今まで気がついてないんだ?
5000体を越えたのだって、1ヶ月半ぐらい前だ。
「それじゃあ、『VAIO』には増殖性があるってことですね?
 やっぱり、もっと研究を重要視してもらわないと、このままいったら本当に人類は滅亡しますよ。」
「あ、ああ、わかった。そう言っとくよ。」
「お願いしますね、湯木さん。では、これで。」
地球連合政府の「VAIO」研究科、湯木藤志の部屋を俺はやっと出た。
あぁ息苦しかった。
イライラする。
何をやってるんだ、政府は?
本当に「VAIO」をこの世から消し去りたいと思っているのか?
やる気がない・・・。
「鷹多さんっ!!!」
この声は・・・
俺は俺を呼ぶ声を聞いていながらも無視して歩き続けた。
「ちょっと、鷹多さん!?」
まだ追ってくる。うざい女だな・・・。
「鷹多さん!!!」
ついには走り出して、俺の前に割り込んできた。
「・・・何か?」
「わざと無視しましたよね?もう、人が悪いんだからっ!」
地球連合政府、環境科・・・篠岡芽美。
それがこいつの名前だ。
「何か用か?」
「何か用って・・・この間の話、覚えてますよね?」
「・・・何のことだ?」
はっきり言って、俺はこいつのことが嫌いだが、こればっかりは本気で言った。
「ちょっと?本気?忘れちゃったわけ?今度、一緒に遊びに行ってくれるって言ったじゃないですかぁっ!!!」
「・・・知らん・・・。それに俺はそんな暇はない。」
そしてまた歩き出す。
篠岡は、一瞬呆然としたが、またすぐに俺に縋ってきた。
「待ってくださいよぉ!私、楽しみにしてたんですよっ!?」
そんなことを言われても、知らないものは知らない。俺にはそんな記憶はない。
「人違いだろ・・・俺はそんなこと知らん・・・」
「えぇっ!?そんなぁ・・・」
「・・・どうでもいいが、ついてくるな。」
すぱっと言い捨て、俺は地球連合政府の本部ビルから出た。
「鷹多さん、次はいつ来るんですか?」
それでも付いてきた篠岡の言葉にも俺は無視して車・・・黒のBMWに乗り込む。
「ちょっと、無視しないで下さい〜っ!!!」
キーを回して、俺はサイドブレーキを引いた。
「もうっ!鷹多悠のばぁ〜かっ!!!」
俺には聞こえてないと思ったのか、篠岡が大声で怒鳴った。
聞こえてるんだよ・・・と俺は青筋を立てながらアクセルを踏み込む。
にしても、名前を大声で呼ばないで欲しい。
悠・・・「はるか」なんて名前、心から気に入らない。
字を見ただけで読めるヤツは少ないけど・・・。
アクセルを怒りに任せて余計に踏み込み、俺はいつもよりスピードを出して向かった。
「VAIO」隔離施設へ。





コメント:
2002.07.27.UP☆★☆
名前の読み方講座っ!(笑)
湯木藤志⇒「ゆきとうし」・篠岡芽美⇒「ささおかめいみ」・鷹多悠⇒「たかだはるか」デス♪
鷹多君は、読めたかな?な〜んてっ(ノリノリ)
次は、ついに「VAIO」感染者の皆さんが出てくる、かなぁ????(←ちょっと自信なし)




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