VAIO03


「ハルカ、お帰りっ!」
俺を迎えてくれたのは、15歳の少年。本当だったら中学校に行ってるはずだ。
いつも、「VAIO」隔離施設の掃除をしてくれている。
今日は玄関の掃除らしい。
名前は、祐爾。佐伯祐爾。
「あぁ。」
「新しい人、来るの?」
「来る。」
「何人っ!?どんな人っ!?」
好奇の視線で俺を見る。何がそんなに嬉しいのか。
「13人。これが、写真だ。」
「わぁっ・・・この人、綺麗だね。」
そう言って祐爾が指差したのは、一人の女。
どう見ても、20代だ。前半か後半かは断言できないが。
「祐爾、年上好きなんだな・・・」
俺が茶化すと、祐爾は顔を真っ赤にして怒った。
「違うよっ!綺麗だ、って思っただけだよ!」
俺は、祐爾の頭を二回ほどはたくと、祐爾から写真を受け取り奥に進んだ。
「あっ、ハルカ!おかえり〜♪」
「ハルカだ!新入りさん来る?」
「ハルカ〜っ♪♪♪」
ここの奴らは・・・あるヤツのせいで、全員名前で呼んでくる。
やめろと言っても聞かないから、俺はもう何も咎めない。
でも、恐らく名字は知らないのだろう。
「新入りは・・・多分、もう少しで来る。それまで待ってろ。」
俺は俺に飛び掛って聞いてきた9歳の女、結希の頭をくしゃくしゃっと撫で、そう言った。
「来るんだねっ!?わぁ〜いっ♪」
結希は喜びながら皆のところへ戻って行った。
俺は、管理人室に入った。
どかっ
荷物を投げ捨て、ソファに座り込む。
近くにアパートは取ってあるが、ほとんどここが俺の家だ。
『隔離施設』と言えども、・・・老人ホームぐらいの広さと明るさがある。
こいつら全員「VAIO」だなんて・・・ぱっと見じゃわからないだろうな・・・。
そして俺は・・・寝てしまった。

ブーッ
ブザーが鳴る。
「・・・あ・・・?あぁ、新入りか?」
俺は起きだして、玄関に向かった。
「ハルカ!新入りさん来たみたいだよ!」
祐爾が俺に好奇心でいっぱいに広がった顔を見せた。
「おー・・・」
そして、玄関を開けて、外に出る。
玄関から門までは約5kmある。
俺は、車に乗り込み、走らせた。
どがぁっ
ちょっと寝起きだったから、頭が回らず何かを何回かぶっとばした。
「お待たせしました。」
俺が門についたのは、5分後だった。
「大変ですねぇ・・・」
「そうでもないです。」
「VAIO」運び屋の一言にも俺は即座に返事。
運び屋は、少し面食らったみたいだが、すぐに書類を取り出した。
「報告は行ってるとは思いますが・・・」
「全部聞きました。」
聞いてるわけない。13人の写真だけだ。
だが、詳しいことを聞いていると日が暮れる。
一人一人の名前、年齢、出身地、殺した数、殺した人間の名前、周りとの関係、など・・・。
必要ないことまで説明してくる。
書類をもらって、名前は本人に聞けばいい。
「あっ、聞きましたか!?わかりました。お引渡しいたします。」
そう言って運び屋は、扉を開けた。
中には檻のような物が入っている。
下にある、赤いボタンを押すと、檻が出てきた。
「じゃあ・・・お願いします。」
本当に"運び"屋だったその男は、そのまま帰っていった。
「さぁて、と。」
今ここで檻を開けたら大変なことになるから、俺はそのままの状態で車と接続した。
エンジンキーを・・・いつもの差し込むところの下の穴に差し込む。
コレ用に作った、改造車なんだこの車は・・・。
実を言えば、本当はBMWでもないのだが、見た目はそうした。
ブロロロロロロンッ!!!
いつもの数十倍のエンジン音で俺は出た。
そうでもしないと、こんな重い檻、馬力が足りなくて運べやしない。
また、5分ほどで玄関に着いた。
やっぱり、道中で何本か木を倒していたし、他にも色々落ちていた。
また、政府の馬鹿にどやされるかな・・・。
俺はため息をつきながら、玄関を開けた。
鍵はついていない。自分から来た奴ばかりなのだ。逃げ出すわけもない。
「あっ!!!ハルカ!!!」
祐爾が俺を見つけ、飛びついてきた。
「その檻・・・。新入りさん!?新入りさんでしょ!?」
目をきらきら輝かせている。何が嬉しいのか俺にはわからない。
「ああ。ちょっとどいてろ。」
祐爾をどかし、俺は檻の扉を開ける。
全くの防音性。彼らは、いきなりの外の景色に面食らっていた。
「隔離施設だ。もう、外に出ていい。」
最初は顔を見合わせていた13人だったが、3人の男を筆頭に、ぞろぞろ出てきた。
「・・・・・・こ、ここが隔離施設!?」
「何か・・・想像と違う・・・な・・・」
13人が降りてきた時、隔離施設への驚きの声をあげたのは、最初に出てきた男3人。
あとの男8人と女2人は下を向いたまま無言だった。
今回は・・・まともな人間が比較的に多いな・・・。
20人新しい「VAIO」が入ってきたとしても、
1人もまともに喋れる人間がいないことだって座覇にある。
3人もいるとは・・・本当に珍しい。
「じゃあ、名前を1人ずつ言ってくれるか?名字は言わなくていい。名前だけで。」
「梓(アズサ)だ。」
即座に返事をしたのは、さっきも最初に感嘆の声をあげた少年。
赤いTシャツに黒で「DEATH」の文字がプリントされている。
これは、何を意味しているのか・・・俺にはあまり興味がわかなかった。
髪は金に近い茶色で、瞳には紫のカラコンが入っている。
顔にはいくつか傷の跡もある。年は17,8といったところか?荒れていたんだろう。
「俺は・・・彬紘(アキヒロ)だ。」
「僕は、照宣(テルノブ)。」
彬紘と照宣がほとんど同時に言った。
彬紘は、年が12,3のガキ。まだ何も知らなかった年頃だろう。
照宣は、22,3歳。塾の講師でもしている頃か・・・?
2人とも、最初に先陣きって出てきて、隔離施設に素直に驚いた人間だ。
ここから・・・あと、何人が口を開いてくれるかが問題か・・・。
「あたしは・・・萩梨(ハギリ)です・・・」
俺がため息をつきかけたとき、唐突にその声は飛んできた。
今まで男共の後ろに隠れて、顔も見せなかった女のうち1人。
年は20ぐらい、左手の薬指に指輪が光っている。
髪の毛は・・・真っ白。俯いているため、表情は窺い知れない。
でも、萩梨に背中を押されたのか、皆、次々に口を開いた。
「俺、怜弥(トキヤ)。」
「僕は宰(ツカサ)です。」
「僕は、隼斗(ハヤト)・・・。」
「僕は猪喬(イタカ)、です。」
「俺は、柳季(リュウキ)。」
「柔紀(ヤスノリ)です。」
「俺は洸(ミツル)・・・。」
「勇汰(ユウタ)。」
そして全員の視線がもう1人に集まる。
だが、最後に残った女は下を向いて、決してこっちを見ようとはしなかったし、
口も開こうとはしなかった。





コメント:
2002.07.31.UP☆★☆
「VAIO」隔離施設の中紹介〜ッ♪
「VAIO」感染者はなんか陽気な奴らが多いっすねぇ☆
やっぱり、「絶望」を乗り越えた人間は、“強さ”が滲み出てきて、
「余裕」ってモノが出てくるんじゃないかな?って思ったので。。。
でも今回は物語自体は全然進んでない・・・(爆)




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