VAIO06


「結局、あの女はここにいるのか。」
「ああ。」
「なあ、悠?あの女・・・似てると思わないか?」
「・・・誰にだ?」
「・・・・・・雪ちゃんにだよ。」
「やめろ。」
「似てるだろ?」
「黙れ。」
「お前も本当はわかってるよな?」
「何でお前はいつも、そうやって俺の過去を掘り返すんだ!?いい加減黙れ!!!」
「俺は、お前を昔からずっと見ている。たった一人の兄だろう?
だから、わかるんだよ。お前は・・・無理してるだろう。忘れたフリして、まだ何も忘れてないだろう。」
「・・・・・・。あいつは、死んでない。」
「悠?」
「あいつは、死んでないんだ。まだ、生きてるんだ。あいつは、あいつは、」
「悠?どうしたんだ?雪ちゃんは・・・あの日に、あの時に」
「死んでない!」
穂の言葉を遮って、俺は怒鳴った。
穂がびっくりして、目を見張る。
「は、悠・・・?」
「黙れ、あいつは・・・、雪は・・・、生きているんだ。まだ死んでいないんだ。」
「悠・・・」
「生きているんだ!!!」
俺は駄々っ子のように、それだけを叫んだ。


生きているんだ。
生きているんだ。
―――――生き返るんだ。



「はぁ・・・はぁ・・・」
息が荒い。
梓、結加、穂の声が頭に響く。
俺は倒れるように管理人室のソファに座った。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
苦、しい。
雪の声が頭に響く。
―――――悠・・・―――――
雪の声が頭に響く。
―――――悠・・・―――――
雪の、声が。
俺の息の乱れは最高潮だった。
頭がぼんとして気持ち悪い。おそらく、過呼吸か。
俺は、ソファの背もたれを支えにして、立ち上がった。
「雪・・・・・・」
俺が見たのは、雪が描いた絵。
雪の降る街の絵。
俺はふらつく足で、その絵の方へ向かった。
「雪・・・・・・・・・・・・雪・・・・・・・・・・・・」
うわ言のようにあいつの名前を呟きながら俺は絵を取り外した。
絵は、ソファの上に置いておいた。
絵のあった部分の壁には、何もない。
俺は壁に手を触れた。
ぼぉっとした緑色の光が、絵が在った部分に溢れた。
ず・・・ずず・・・
重い音とともに、大人一人がやっと通れるぐらいの大きさで、壁が沈み込む。
指紋、網膜パターンを駆使して作った隠し扉だった。
俺は荒い息をつきながら、扉の中に転がり込んだ。
中は、2,3mの通路のあと、エレベーターに繋がっている。
俺は迷わず乗り込んだ。
エレベーターの中にも、指紋と網膜パターンをチェックする機械が入っているのだが、
外と違って、壁と同色にしたりというようなカモフラージュはしていない。
其処の部分だけ、半透明の黒になっている。
俺は其処の部分に手を置いた。
=指紋、網膜パターン一致。地下へ進みます。=
事務的な機械の声。そして動き出すエレベーター。
俺は、激しい吐き気と眩暈で、座り込んだ。
俺の目的地は、地下30mのところに位置していた。
がたん、という音とともに、エレベーターが止まった。
自分で作ったものだから、大して心地よくない。
それどころか、ガタがある。
まぁ、地下30mまで階段で来る勇気もないし、階段を掘る元気もない。
だから、俺はせめてのエレベーターにしたのだ。
エレベーターのドアが、暫らくの沈黙の後、開いた。
少し先にあるドアから光が漏れている。
俺は、さっきより重症になってもう立つこともままならない足を引きずって、その部屋まで進んだ。
ドアを、開けた。
「ゆき・・・・・・」
中にあるのは、「VAIO」。幾つものチューブ。
薄い緑色の液体に入っている、一人の女。
女の肌は雪のように白く、美しかった。
「ゆき・・・・・・」
そう、これが雪だ。
雪は、俺の手によってここまで復活した。
少し赤らんだ頬、なんて今にも起きてきそうだ。
だが。
この液体から出れば、雪は瞬く間に真っ白と成り果て、死ぬ。
俺は側にあった「VAIO」を掴んだ。
何もまだ侵食していない「VAIO」は、ただの肌色の塊で、ぬるっとしている。
俺は、それを緑色の液体の中に放り込んだ。
液体が、さらに濃い緑になる。
これが・・・この「緑」が、「VAIO」の毒だ。
確かに、「VAIO」の毒は人を殺す。
だけど、「VAIO」の毒が壊滅させるものは、人間の中身だ。
そして、「VAIO」の再生力は・・・人の外見に働いた。
この関係は、まだ政府も知らない。俺しか知らない。
俺が見つけた。でも報告しない。
意味がないから。あんなやつらに、なんで報告しなきゃいけない?
まあ、俺の私情は置いといて、
つまりは「VAIO」の毒で死んだ人間を、「VAIO」の再生力で生き返すことは出来ないということだ。
だが、さっきも述べたように、「VAIO」の毒は人間の外見を五体満足にまであげる。
「VAIO」の毒にやられて、死んでしまった人間は、「VAIO」のせいで外傷を負うということがない。
つまり、綺麗なまま死ぬ。
だが、腐食などは始まるもので、見るも見かねない姿には成り果てるが。
だから、俺は外見をよくするために、この液体に雪を浸けている。
そして、腐敗を止めるために。
いつか蘇生術が完成する、その日まで・・・。

久しぶりに、雪に会った。
綺麗だったが、気になることができた。
顔にあった黒い斑点は一体なんだ?
次、まだあったら綺麗に取り除いてやろう。
いつでも、瞳を覚ませるように。
いつまでも美しい雪であるように。






コメント:
2002.08.31.UP☆★☆
とゆーわけで・・・管理人室から隠し扉でいける場所に、雪ちゃん保管。
“隠し扉”とか、“地下室”っていうのはこういう蘇生とか不死の研究に付き物ですよねvv
とゆーわけで、なんの捻りもなく使っちゃいました。(爆)
やっぱり女の子は綺麗なのが一番だよ〜vv(←おかしい)




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