VAIO10


その後、3時間して結加は下から俺を呼んだ。
俺は結加に何も聞かなかったし、結加も何も聞いてこなかった。
無言が、痛かった。

「悠・・・本気で、冷蔵庫頼む。」
俺が管理人室に戻ると、すぐに懇願してきたのはここにいる中での最年長の光秀だった。
ちなみに、年は67歳。
明らかに呼びつけに出来る年齢ではないのだが、そんなこと隔離施設では通用しない。
9歳の結希や、最年少の5歳の大輔まで、呼びつけで呼ぶ。
(まあ、あだ名などで呼びたい奴はそれでもいいが。)
全員一緒の立場。年齢とかも関係ない。
それがここ(隔離施設)なのだ。
そして光秀は流石にもう耐えられない、と言った表情で俺に向かって言ってきた。
「ああ。もう政府に行く用意は出来た。・・・すぐに取り替えてもらう。」
結加を待つ間に、準備はもう完璧に出来た。
あとは俺が行くだけなのである。
「まだ動けない奴もいるが、正常に戻ってきた奴は、冷蔵庫の無い不便さにそろそろ嫌気がさしている。悪いができるだけ、早くして欲しい。頼んだぞ。」
光秀はそう言うと、管理人室を出た。
残ったのは、俺と、結加。
「?・・・何、何かあったの?」
俺は俺に尋ねてきた結加の方をふっと見た。
結加はきょとんとした顔で俺を見ている。
「別に・・・。ちょっと出てくる。」
俺は軽くそう言うと、管理人室を出た。
結加は何が何だか、という感じで肩をすくめた。

玄関に向かうには、冷蔵庫の前を通らなくてはいけなかった。
さっきあそこまで皆を苦しめておいて、前を通るのも嫌だと思いつつ、俺はそっちへ向かった。
そして、冷蔵庫の前を通過した。
まだ倒れている奴がいたが、数は半分ほどに減っていた。
・・・。やっぱり、刺激はここまで強いか・・・。
俺は、まだ半分残っていたのが驚愕だった。
あれからもう既に4時間近くが経過している。
昼飯も食わず、ぴくりとも動かない。
流石に『VAIO』も精神までは再生できないしな。
俺は無言でその横を通り抜けた。
結希があのまま何も動いていなかったのも、発見できた。
玄関では祐爾がいた。
「悠・・・。どこ行くの?」
「冷蔵庫を直して貰うんだ。」
「政府の人間が?どうやって来るの?」
・・・・・・。
俺は、不意をつかれた。
何も考えず、小さい頃に親父がしたように、壊れたテレビを写してもらうことにすると同じ感覚で、政府の人間を呼んでくるつもりだった。
だが、政府の人間はここに入れないじゃないか。
「はは・・・やっぱり俺は何かどうかしてるな・・・。一応対策を聞いてくるよ。」
自分で自分に憫笑してから、俺は玄関を開けた。
「悠・・・あの、・・・えっと・・・」
祐爾が、何かを言いかけて、言葉を濁す。
「?」
「何か・・・嫌な予感、するんだ。」
唐突なその言葉。
祐爾にしては、珍しいことだった。
だが、冗談ではないみたいだった。真剣な表情で俺に言ってくる。
「悠、気をつけて。」
祐爾はそう言うと、俺の顔をじっと見た。
俺は曖昧に頷いて、隔離施設を出た。
俺の心もざわついていた。

そう言えば最近、政府から連絡が無かった。
1週間近くも新しい『VAIO』感染者が入ってくる、とうい連絡がないことなんて今まで無かった。
一番多いときなんて1ヶ月近く、毎日50人とかずっと来ていた時もあった。
それなのに。
流石にそろそろ『VAIO』の数も減ったきたということだったんだろうか?
でも、なぜ隔離施設の冷凍庫に『VAIO』が入っていたのか。
俺の頭は何か辻褄が合わなかった。
何か、何か大事なことを俺は見逃している。
そんな気がしてならなかった。
そして俺は地球連合政府本部へ向かった。






コメント:
2002.10.04.UP☆★☆
ふ〜・・・ついに10号の大台に乗りました、「VAIO」です。
今回短いですよね;すいません。
でも、次に切れるところを選ぶと、凄く長くなっちゃうしなぁ。
あ!そだ☆2作アップにしちゃおーっと。。。^^
とゆーわけで、ちょっと展開が動き出した「VAIO」です。
次の回で、多分一番大事なことばらしちゃいます。
「VAIO」はまだまだ続きます・・・(笑)




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