VAIO13 <な・・・VAIO・・・!?そんな、お前は・・・毒を・・・?> 地球連合政府本部ビル・・・俺と、「VAIO」感染者たち、そして篠岡。一瞬静まり返った人々も、また、全員走り出していた。 最初の感染者の狼狽。周りの硬直。 俺が『VAIO』だっただけでここまでうろたえるか? 「ああ、放たない。」 俺は軽く頷いた。 そしてその隙に最初の感染者の懐に飛び込んだ。 <くっ・・・> 慌てて構えようとする最初の感染者。だが・・・遅い。 ガッ 俺に簡単に殴り倒された。 <ガハッ・・・ぐ・・・> だが、『VAIO』だ。すぐに回復するだろう。俺は後ろを振り向いた。 「篠岡・・・早く逃げろ。」 呆然と座り込んでいた篠岡は、動かなかった。 「篠岡。」 「芽美、ほら立ってよ!行くよっ!?」 同僚の言葉にも動かない。俺は同僚の女たちに諦めたようにこう言った。 「1人でも多く助かれ。早く、逃げろ。」 女たちは頷くと、後ろを振り向いて篠岡を気にかけながらもその場所から離れた。 ほんの少しの隙だった。 <馬鹿が・・・ははははっ!!!死ね。> 最初の感染者から声が聞こえた。・・・回復が、早い? 俺がそいつを見た瞬間・・・背筋に悪寒が走った。 しまった。 再び後ろを向くと、2体の『VAIO』が何の音も立てずに女たちの体に侵入していた。 ―――――感染――――― 俺は自分の無能を呪った。 また、助けられなかった。 俺は、まだその場に呆然と座っている篠岡を抱きかかえると、未だに止まらない人々の群れに駆け込んだ。 <逃げるか?感染者を見捨てて逃げるのか?はははっ!!!愉快だッ!!!はははははっ!!!> 最初の感染者の嘲笑が聞こえた。 俺は後ろを振り返らなかった。 人々の群れの中、俺は篠岡を抱いたまましゃがんだ。 さっきは踏み潰しそうな勢いだった人々も、今は少し人数が減り、俺たちを避けて通っていった。 篠岡の瞳が、開いた。 「鷹多・・・さん・・・」 「篠岡?・・・気がついたか。」 「皆は・・・?」 「・・・・・・」 「感染、したんですね・・・。」 篠岡は無表情だった。 俺は無言で返すしかなかった。 「私だけ、ですか?あの中で・・・」 こんなに足音や、人々の叫び声で耳が壊れそうなほどの騒音なのに、なぜか篠岡の声ははっきり聞こえた。 直接頭に響いてくるようだった。 「なんで、私だけ・・・助かったんですか・・・?私も、みんなと・・・」 篠岡は泣いていた。 それを隠すわけでもなく、表情も変えず、ただ泣いていた。 俺は静かに篠岡を見下ろした。 「・・・『VAIO』になったからって、幸せになれるわけじゃない。」 それだけ、言い放った。 篠岡は瞳を閉じた。 涙が下に落ちた。 俺は篠岡を抱きかかえたまま立ち上がった。 篠岡を見たが、ぴくりとも動かなかった。 「すまない・・・」 俺は篠岡に聞こえるはずもないほどの小さな声で呟いた。 必死に人々の群れを『VAIO』たちのいる反対側へ抜け、何とか地球連合本部ビルから外に出た。 人々の大混乱は、もちろん外にも広がっていた。 "まずいな・・・" 屈んで篠岡を下に降ろすと、俺は・・・また、『VAIO』たちの方へ向かった。 やつらの存在を否定するために。 コメント: 2002.10.27.UP☆★☆ きゃ★ちょっと悠が人間らしい・・・(笑) っていうか話が・・・取り敢えず芽美がピンチになったことで悠の気が優しくなったような。 結局、現代の話に戻ってます。 そして、悠はなんか今までに見た『VAIO』と違う『VAIO』の存在が気に食わない。 自分の信じていた『VAIO』だけが『VAIO』だと思いたい。・・・そんな感じです。 ちなみに、今回は 2作アップです。 |