VAIO14 <逃げたと思ったが?> 俺がまた、その場所にやってきた頃には、とうとう人々の騒音や群れもなくなりつつあった。 「逃げた・・・のかもな。」 『VAIO』感染者たちは、最初の感染者を守護するように立っていた。 「お前らは一体何だ?」 この質問をするのは何回目だ? だが、俺の一番の疑問は、それだ。 <私たちは・・・『VAIO』だ。でも、そこらの『VAIO』と一緒にされるとかなわないか。じゃあ、『D-VAIO』と呼んでもらおうか?> 『VAIO』・・・いや、『D-VAIO』の最初の感染者は、そう言って軽く笑った。 <我ながらなかなかいい名前を付けたな。> さっきより、そいつ―――――『D-VAIO』の最初の感染者の顔色は良くなっている気がした。 「『D-・・・VAIO』?」 <ああ。我々が改良した『VAIO』・・・。『D』・・・何の『D』だと思うか?ははははっ。私の名前は、ヨシヒサ。・・・人間の時の、名前だが。・・・はははははっ!!!!!> 明らかにオーラから変わっている。口調も何か違う。 俺は警戒を強くした。 「何の『D』だ?」 声のトーンはあくまでも変えない。 周りの『D-VAIO』たちからの攻撃もいつ来るかわからない。 <それがわかれば我々の目的もわかる・・・。自分で考えればどうだ?> ヨシヒサはそして憫笑した。 無言が、辺りを支配した。さっきまでの人の群れもいない。 <他に、質問は。> あくまで少し笑い気味の口調だ。 この余裕は、何だ? 「・・・『D』の意味は」 またか、という感じで肩を竦める。 <分からないか?私たちの目的さえも?> 「ああ、わからない。」 別に、変な意地が無い分、俺はそういうことも軽く認められた。 ヨシヒサたちにはそれはあまり面白く無かったようだ。 <答えれば、私たちの質問にも答えるのなら、答えよう。> 「ああ。」 ・・・即答。 別に何か打算がある、とかそういうことじゃない。 俺には、今、こいつらに隠したい事なんてない。それだけだ。 一瞬、ヨシヒサの顔から笑みが消えた。 だが、すぐに笑みを取り戻した。 <ほぅ?じゃ、質問する・・・> 「その前に俺の質問に答えろ。」 ヨシヒサの言葉を遮って、俺は言った。 『D-VAIO』たちから殺気が漲る。 <仕方ない・・・ま、いいだろう。私たちの『D』の意味・・・それは・・・> ヨシヒサはもったいぶって『D-VAIO』の女の方に手を伸ばした。 『D-VAIO』の女は、そっとヨシヒサを後ろから抱いた。 <DEATH?DIE?DEAD?・・・違う。> 女の手をそっと握り返しながらヨシヒサは言葉を繋げた。 <DESTROY・・・それだろう。> 大口を開けてまた、笑った。 DESTROY・・・?「破壊する」・・・か。 !?!?!?まさか? 「DESTROY・・・ということはお前たちは・・・」 <私たちの目的、それがわかったとしても・・・鷹多悠、お前には何もできないだろう・・・?> そして、笑った。 俺は瞳を細めた。 呆れたわけでもない。蔑んでいるわけでもない。 ただ、顔の力が抜けた。 "所詮、小さな奴らか。" 何も感じなくなった。 何も驚いた様子も無い俺に、ヨシヒサたちは無言になった。 <いちいち面白くないな・・・> 別に、俺はお前たちを面白くさせようなんて思ってないんだが? そう突っ込んでやりたかったが、やめておいた。 <もう、いい。私たちからも質問させてもらう。> 俺は無言でヨシヒサたちを見つめた。 体にはもう何も力が入っていなかった。 先ほどまでの余裕を欠片も見られなくなったヨシヒサが、いらついた口調で話し出した。 <貴様の欠落症状は何だ?> 欠落・・・症状? 「何を・・・」 <どうして『VAIO』が必要だったんだ?> ああ・・・そういうことか・・・ 「ココロ。」 俺が一言そう呟いたのに、ヨシヒサには聞こえなかったようだった。 「ココロ。」 もう一回呟いた。 <?こ・・・ころ・・・?心か?心・・・?> ヨシヒサは何度も繰り返すが、理解できていないようだった。 確かに、『心』という定義ははっきり定まっていない。 「心が痛い」と言って胸を抑えるのは定番だが、そんなものは胸の辺りには見つからない。 だが、『心』と言われてすぐさま脳を想像する人間なんてまずいない。 実体のないモノ。それが『心』だ。 「つまりは・・・感情が無かった。」 それを聞いた瞬間、ヨシヒサがぱっと顔をあげた。 側にいた『D-VAIO』の男の方を向く。 男は大きく頷いた。 ヨシヒサは満面の笑みになると急に笑い出した。 <ひゃははははぁっ。信じられない・・・そうか・・・そういうことか・・・> 笑い方が尋常じゃ、ない。 俺は抜いていた力をまた込めた。 <鷹多悠・・・お前は最高だ・・・わかった・・・『VAIO』の全てが・・・!!!> 『VAIO』の、全て? 俺は静かに右の靴の爪先を地面に二回当てた。 何の音もしなかった。 右の靴には、銃とガーゼが入っている。 いつでも取り出せるように俺は構えた。 <私たちと共にいるのなら・・・お前には、私の次の地位を与えてやろう。> 俺は銃を取り出した。 パァン 軽い音と共に、他の誰が動き出すよりも早くヨシヒサを撃った。 だが、撃ち終わったと同時に他のやつらからも攻撃がきた。 俺はこと如くを避けたが、少し内心ほっとした。 篠岡達がいる時にこれを行っていたら、間違いなく全員感染していた・・・。そう感じたからだ。 俺は飛んでくる固い黒い塊を落とす事も無く只管避けた。 さっき撃った銃はヨシヒサに当たっていた。 『D-VAIO』とか言うものだろうが何だろうが『VAIO』は『VAIO』。再生が始まろうとしているのが見えた。 ヨシヒサの体は逆に消滅していった。 <な・・・?> パァン 2発目。どう考えても重い弾じゃない。 軽い弾。 1発目は左肩にかすめ、2発目は右足。 ・・・殺さないように。 肩から腕にかけてが変色してきたヨシヒサを尻目に、俺は3発目を構えた。 左足も撃ち抜いて、動けなくしようと思ったからだった。 だが、その時ヨシヒサが叫んだ。 <ユキ!私を守れ!!!!!!!!> ―――――体が硬直した。 さっきからヨシヒサの周りに侍っていた女の一人がヨシヒサの前に立った。 何もあいつには似ていなかった。 俺はすぐに正気を取り戻した。 だが、その一瞬の隙は、相手の攻撃を受けるには十分すぎた。 俺は得体の知れない黒い塊を後頭部に受けて昏倒した。 コメント: 2002.10.27.UP☆★☆ 本当は・・・1作でまとめて出すつもりだったのですが; 1つ1つは短くなっちゃうかな、って思ったんですけど・・・ ちょっと1つのページに固めるには読む人が嫌になっちゃうかなぁ、と・・・。 悠と『D-VAIO』との戦闘・・・なのに文章表現能力が足りないために・・・迫力が無い・・・はははは・・・(軽い笑い) ヨシヒサも・・・もう少しかっこいい役にしたかったのに・・・はぁ〜(自己嫌悪) |