VAIO16






「・・・・さん!鷹多さんっ!!!」
女の声がした。嫌に高いこの声。
・・・篠岡?
そうか。ここは地球連合政府の本部ビルで・・・俺は何を・・・?
!!!!!
がばぁっ
急に俺は起き上がった。
篠岡が目を点にして俺を見ている。
・・・?
隣にいるサングラスの男は誰だ・・・?
「鷹多君。悪かったな・・・君を巻き込んでしまった。」
たかだ・・・「くん」?俺の事をそんな風に呼ぶのは、一人しかいない。
「湯木さん?」
「ああ・・・。ちょっとインターナショナル・センターに調べに行ってたんだ。本当にすまん・・・」
髯を生やしていたから全く分からなかった。
確かに、髪の色は湯木藤志の色だ。
・・・湯木。
そうだ。こいつの名字だって「ユキ」じゃないか。
隔離施設にだって「ユキ」って名前の奴や、結希・・・「ユウキ」だっている。
俺は一体何に反応したんだ?
俺は地面を殴りつけた。
右手に痛みが走る。
ふと思いついて後頭部に左手を当ててみた。
そういえば、この辺りを思いっきりぶつけられたような・・・
でも、今は違和感一つない。
流石、『VAIO』だ。
というより、篠岡には『VAIO』だということがばれたはず。
だったら、隔離施設管理人解雇・・・ということもありえる・・・。
とにかく色んな不安が俺の頭を駆け巡った。
「・・・くそが・・・」
顔を上げると心配そうに篠岡が覗き込んでいた。
湯木は俯いていた。
「取り敢えず、あの後何があったかわかるか?」
俺はいつも通りの口調で篠岡達に聞いた。
篠岡は少し俺から目をそらした。
「わかります・・・。わかるからつらいんです・・・。」
何があったのかはよくわからないが、篠岡の心には大きな衝撃を与えたらしい。
「・・・話せるか?」
篠岡は黙って頷いた。
「簡単なことです・・・。あいつらが・・・残りの『VAIO』たちを・・・道にいた人々に、感染させました。」
「・・・」
「そして、反抗した人たちを殺して・・・貴方の車で逃げました。」
「・・・」
「でも、あいつらの首領・・・柏芳久を媒介とした『VAIO』は凄く弱ってました・・・。」
「そうか。」
「逃げた方向は、西で・・・それでも貴方が出て来ないので入ろうかどうか迷っていたら、湯木さんと会いました。」
淡々という篠岡だったが、感情を必死に押し殺して話しているのが痛いほどわかった。
俺はこれ以上聞くのはやめた。
「で・・・湯木さんは何をしに?」
「俺は・・・この前聞いた、『VAIO』の個体数について調べに行っていた。やっぱり、おかしいんだ。」
『VAIO』の生産数は5000体なのになぜか今は6500体いる、っていうあれか・・・。
「そういえば、今週は全然連絡がなかったんですけど・・・こんなこと、初めてですよね?」
湯木の話の前に俺は自分の質問を言った。
そう、雪に関するドタバタで気付かなかったが、政府から1週間近くも連絡が無かったことなんて初めてだった。
酷いときには新人『VAIO』が一日に30体近くずつ、なんていうときもあった。
「ああ。『VAIO』感染者が相次いで行方不明になっているっていうニュースを聞いたことあるか?」
湯木は頷いたあと、徐に切り出した。
そういえば、ここに来るちょっと前の時に見ていたような・・・
俺は黙って頷いた。
「それが・・・『VAIO』感染者・・・しかも、隔離施設に志願した感染者だけが行方不明になっているんだ。国際警察は、99%何者かが誘拐したと断定して捜査を進めているが、なかなか捜査は進まない。」
「見つかったら・・・感染か、死だからですね?」
湯木は深く頷いた。
「ああ。それに仲間が感染したり死んだりした場合・・・。生き延びてもどうしようもない悲しみが襲ってくるからな。」
湯木は一息つくとサングラスをはずした。
そしてカバンの中に手を入れ、書類を取り出した。
「ここに名前の載っている・・・合計153人。今回誘拐された人物だ。」
湯木は書類を俺に手渡した。
その書類には、名前と年齢、顔写真。現住所、実家住所、未婚か既婚か。友人関係など・・・色々なことが載っていた。
全員隔離施設への申請は今週中だった。
「誰かが監禁しているにしても心当たりが全く付かない。自分が『VAIO』になってない限りあんなことしたら死ぬ確率が高いが、国際警察が容疑者に名前を上げたやつの中には『VAIO』感染者は1人もいなかった・・・。」
湯木は黙り込んだ。
「ま、要するにお手上げ、だな。」
湯木は肩を竦めた。
俺はこいつのこういう適当なところがはっきり言って嫌いだったが、今となっては少し救いだった。
こういう風にあまり考え込まないやつが近くにいてくれる、っていうのは少し安らぎにもなる。
ま、気休めにしか過ぎないけどな・・・。
沈黙が訪れた後、口を開いたのは篠岡だった。
「その、犯人・・・。『VAIO』をやたらと捕まえようとしてるんですよね・・・?そして、自分は毒では殺られないことが必須条件。でも、普通の『VAIO』に感染した人は精神ショックでそこまで開き直れる人なんていないし・・・そう考えると・・・」
  「・・・・・・・・・・・
    ヨシヒサたちか・・・・・・」
篠岡の後を継いで俺が言った。





コメント:
2002.11.22.UP☆★☆
まさかまさかの3作アップ!第2作目。
悠の目覚め。そして事実の解明。
今回からしばらくはそんな感じで淡々と進んでいきそうです。
動きとか無くても、事実を文字の羅列で表現する事も大事かなぁ、と・・・。
これを皆さんに退屈させないように・・・っていうのが難しいですよねぇ。
本当にすみません。。。




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