VAIO17 湯木は顔を強張らせた。 「鷹多君!?篠岡君!?・・・ヨシヒサ、というのは・・・?」 「さっきいて、鷹多さんと戦ってた・・・えっと、『D-VAIO』っていう新種の『VAIO』の感染者たちです。」 「!?」 その言葉に反応したのは、湯木・・・だけじゃなく俺も反応した。 「篠岡?・・・なんで知ってる?」 そう。確か俺がヨシヒサから全てを聞き出したときは、篠岡は政府ビルの外で意識を失っていたはず。 篠岡は静かに溜息をついた。 「ごめんなさい。私、ずっとこっそり聞いてたんです。あ、もちろんドアから覗くとかいう危険なことはしてません。・・・えっと、その・・・」 急にごもり出した。 「篠岡君・・・またか?」 「はいぃ〜。ごめんなさいぃ・・・」 湯木が呆れたように篠岡に言って、篠岡が恐縮しまくった。 俺にはさっぱり話が読めない。 「?」 「・・・こいつなー、政府ビルの隣にある国際銀行の屋根に登るのが得意なんだよ・・・。鷹多君見たさに、何回もそこに登って『VAIO』研究科の俺の部屋を覗いていたことか・・・。屋根を移動すれば、東側にある部屋ならどこでも覗けるからな・・・しかも、セントラル・ホームは広いからばっちりだろ。」 湯木が得意そうに説明した。 だが、それでは辻褄が合わない。 「音声は・・・?」 俺のそのもっともな意見に湯木が凍りついた。 篠岡はさも可笑しそうにお腹を抱えた。 「っていうか、湯木さん。だいいち、国際銀行は23階建てですよぉ。湯木さんの部屋は23階だから見られますけど、セントラル・ホームは1階だから到底見られませんって。」 「湯木さんの部屋は22階だ。」 今度は得意満面の篠岡に突っ込みを入れておいた。 そう、政府ビルはセントラル・ホームが通常の2階分ぐらいの高さがあるから、高さ的にいえば1階ずつ、ずれている。 というか、篠岡のそのはっきり言ってストーカーとも取れる行為についてはいいんだろうか地球連合政府本部・・・。 湯木と篠岡は2人して凍りついていた。 ・・・いや、今はこんなことをしている場合じゃない・・・。 「で、どうやって篠岡は聞いていたんだ?」 俺は気を取り直して本題を聞いた。 篠岡は我に返ったように俺の方を向くと、頭を2回左右に振ってから、徐に切り出した。 「てっきり湯木さんは知っているものかと思ってはいたんですけど・・・。えっと、私と同僚の子があの『D-VAIO』の中にいましたよね?その子から、伝わってきたんです。」 「は?」 話の意味がわからない。 「えぇ〜っと、・・・その子に盗聴器が付いてたんですー・・・。」 「・・・・・・・・」 「あ、別に嫌がらせとかじゃないです!私にも付いていると思いますし、もう1人の同僚にも付いています。皆で付け合って、彼氏とのデートの盗み聞きもしちゃえ、っていうことで・・・。」 俺には何も理解できない・・・。 何が一体楽しいのか・・・? プライバシーの侵害もいいところである。 さっきのストーカー行為といい、この盗聴器といい・・・ ・・・盗聴器・・・? 「篠岡!?今なんて言った!?」 「え、だから盗聴器で盗み聞きしました、って・・・」 「篠岡にもそれはついているのか!?」 「ええ。・・・って!?」 篠岡も気がついたらしく、頭を掻き毟りだした。 「髪の毛のどこかにあるはずなんですっ。皆、お互いばれない所に・・・って」 その言葉の途中で、俺は篠岡の髪に手を伸ばした。 篠岡と目が合った。 篠岡は真っ赤な顔で身を引いた。 「ごっ・・・ごめんなさい・・・」 そして下を向いた。 ・・・・・・ 「ちょっと2人とも、俺がいること忘れるなよ?」 湯木がやってられん、と言った口調で俺たちに言った。 俺はその言葉を無視して、 「今はそんなことをやっている場合じゃないんだ。」 と言うと、下を向いている篠岡の髪の毛をそっと掻き分けた。 篠岡の髪は、ロングのウェーブヘアで、下ろしている。背中辺りまである。色は殆ど黒に近い茶色。 量は、おそらく普通の人よりかなり多いのだろう。 髪の毛からはシャンプーの香りなのか石鹸のような香りがした。 だが、俺の心はそんな篠岡の髪より、盗聴器のほうにあった。 これを見つけなければ・・・もし、雪のことが知れたりしたら・・・!!! そう考えただけで吐き気がした。 目の前が暗転して、脳から血が引いていく。 眩暈にも似た感覚。 だが、倒れているわけにはいかない。 とにかく盗聴器を外さなければいけない・・・。 俺は必死に篠岡の髪の毛を1本1本確かめた。 「これ・・・か?」 それから何時間後か。 外は薄暗く、昼間の大騒動で人がいなくなってしまった本部ビルももう殆ど見えなくなっていた。 篠岡の左下の方の頭部。そこに、盗聴器のような・・・小さな天道虫方の機械が合った。 「これですっ!!!皆に、これがついているはずなんですっ。受信機が蟻なんです。」 そう言い、篠岡は蟻の形をした機械を取り出した。 イヤホンがそれに繋がっている。 「・・・盗聴器、壊すぞ。」 篠岡は、静かに頷いた。 思い出が、あるのかもしれない。 でも、仕方がない。 雪には代えられない。 コメント: 2002.11.22.UP☆★☆ まさかまさかまさかの3作アップ。ついにやっちゃったよ、って感じですけど。 ちょくちょく書いたり、授業中に書いたのを(爆)PCに打ち込んだり、で もうちょこっと頑張ればもう1ページいけたというかなんというか・・・; 何だかんだ言いながら、やっぱり芽美は悠にベタ惚れなんですよねっ♪ っていう雰囲気を出したかった回だったんですけどね・・・; イマイチ、「恋をしてる可愛い女の子v」っていう感じが・・・出ない。。。 |