VAIO18


「っと。外も暗くなっちゃいましたね・・・」
篠岡が、外を見ながら言った。
盗聴器を壊した瞬間、少し篠岡の瞳に涙が光ったのを俺は見逃さなかった。
やっぱり、一応あの同僚たちの「形見」であったことには間違いなのだから。
だが、壊した瞬間は呆気なかった。
俺が右手の親指と中指でぎゅっと握ったら、一発だった。
こんなに脆いものでもしっかり髪の毛にくっつくもの(取ることは出来ず、結局付いている髪の毛を抜いた)で、毛根の辺りにあれば・・・かなり役に立つようだな・・・。
「ああ。どうする?とりあえず・・・まぁ、この季節じゃまだ寒くはないが・・・。一旦ここを出ようか。」
湯木の提案に、俺も篠岡も賛成だった。
「じゃあ俺は一旦『VAIO』隔離し・・・せ・・・つ・・・・・・・」
そこまで言って俺は重大なことを思い出した。
少し声が震えた。
嫌な悪寒がした。
「・・・俺、もしかして車取られた・・・んだよな?」
篠岡が「あ!」という顔をした。湯木も同じような顔付きだった。
ここから『VAIO』隔離施設まで・・・歩いてなんて行ける距離じゃない。
バスなんか出ているはずもない。
湯木は電車通勤だし、篠岡は徒歩だ。
このままじゃ・・・隔離施設に帰れない・・・。
確かに、隔離施設の奴等は気に入っている。あいつらに会いたいとも思う。
それも帰りたい想いの一つではある。
だが・・・
「雪・・・・・・」
俺は今、その名前しか、・・・呼べない。
あいつに会いたい。それだけだ。
あいつに会えないのなら、居る意味などない。
そこまで考えて、はっ、と気付いて顔を上げた。
篠岡が怪訝そうな表情で俺を見つめていた。湯木もきょとんとした顔で俺を見つめていた。
「今の、俺を呼んだんじゃ・・・ないよな?」
「あんなに愛おしそうに読んだんですもん・・・湯木さんのことだったら怖いです。」
湯木は顔を崩しながら俺にそう聞いたが、篠岡は無表情で淡々と言った。
やっぱり口に出してしまった・・・。
だが、ここで変な言い訳をするのも馬鹿らしいので、俺は無視することにした。
「取り敢えず・・・どうやって隔離施設に戻るかだな・・・。」
「でも、戻る前にまだ附に落ちない事を説明してもらいたいんだが?」
湯木が俺に言った。
「ああ。でも、どこでだ・・・」
「私のアパートなら歩いて行けますよ?」
俺の言葉を遮って、篠岡が言った。
俺は頷いた。だが、湯木は嫌そうな声でこう言った。
「アパート、ってか政府の寮だろー?・・・あそこ汚いんだよな・・・」
「文句言わないで下さいっ!湯木さんの家じゃ、ここからは電車乗り継がないと行けないじゃないですかぁ!!!」
湯木はしょーがない、という感じで肩を竦めた。
3人で、政府ビルを出て、篠岡の寮を目指した。
道には、人がちらほらいるだけだった。
「やっぱり、いつもより格段に少ない・・・。」
「ま、仕方ない。『VAIO』の威力は、政府に近い人間であればあるほど知っているからな・・・」
湯木が遠くを見ながら言った。
俺は、急にふと思い出した。
「そう言えば、湯木さんの今日の調べに行った内容の説明は聞きましたけど、成果は聞いてないですよね?」
湯木はにんまりと笑った。よく聞いてくれた、という感じだ。
「まあ待て。篠岡くんの部屋でゆっくり説明するから。」
この感じは・・・何か収穫があったに違いない。
「だから、少し急ごうか。」
湯木は笑顔のまま先にスタスタ歩いて行ってしまった。
俺は、少し頭の中を整理した。
今日は、何があった・・・?
そうだ。確か冷蔵庫・・・冷蔵庫を直しに来たんだ。
そしたら湯木がいなくて・・・辺りをふらつこうかと思っていたら、あの事件か。
そして、ヨシヒサ達『D-VAIO』の出現。
あいつらの・・・目的。「DESTOROY」。・・・破壊。
もし、隔離施設が破壊されたら?
破壊されなくとも、侵入されて、見つけられたら?
・・・雪・・・!!!!!
「ぅぐぅっ・・・」
いきなり、吐き気が込み上げてきて、俺は座り込んだ。
「た、鷹多さんっ!?」
篠岡が俺に走り寄った。湯木も振り返った。
「・・・っぐっ・・・」
雪、
雪、
雪・・・
雪・・・
雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、雪、
頼む、無事で。
無事でいてくれ・・・。
貴女がいないと、俺は生きている意味が無い。
愛、して・・・
「がっ・・・」
本当に血を吐いた。
どす黒くて、ちっとも澄んでいなかった。


『VAIO』の、血だった。







コメント:
2002.11.30.UP☆★☆
はー・・・。なんか悠の性格変わってきてません?(爆)
本気で最悪だぁぁぁあ!なんてこった。(死)
でも、気持ちの余裕はちょっと復活?って感じがします。
当初は脇役中の脇役でしか考えてなかった篠岡&湯木の活躍やらが目立ちますが。(笑)
それにしても、雪と悠の恋物語vが書きたくてしょうがない・・・。
他にも書きたいこといっぱいあるしっ!とにかくパンクしそうですよこの話は・・・(汗)




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