VAIO19


「ここです。・・・鷹多さん、本当に大丈夫なんですか?」
篠岡が俺に心配そうに聞いてきた。
だが、俺はその言葉には答えず、湯木に話し掛けた。
「とにかく早く中に入ろう。」
湯木は頷いて不服そうな顔をしている篠岡に鍵を開けるように言った。
やっと、篠岡の寮に着いた。
道中、血を何度も吐いた。
雪の無事を願えば願うほど苦しくなった。
まさか、雪に何かあったとでも言うのだろうか。
思うだけで、不安で心臓が痛い。そしてまた血が込み上げてくる。
さっき、よっぽど打ち所が悪かったらしいな・・・。
俺が血が上がってきても飲み込んだりしてなんとか吐かないように戦っていたら、湯木がドアを開けた。
中は、整然としていた。
壁際にはダンボールが3箱。
そのとなりにMDコンポ。コンポの上に写真がある。
窓の近くにはやけに背が低くて横に長い本棚。
真ん中にガラス製の机1脚。
・・・それだけだった。
ベッドも無ければ、女特有のアイドルのポスターやらぬいぐるみやらもない。
「綺麗さっぱりした部屋だな〜・・・」
湯木が唸ったが、俺も同じ意見だった。
「お金ないんですもん。何もそろえられませんよ。」
篠岡が自嘲気味に笑った。湯木がそりゃそうだな、と言わんばかりに肩を竦めた。
「金が無いって・・・政府本部の人間が?」
俺だけが、それを疑問に思った。
確かにそうである・・・政府の人間と言ったら、この末期とも言われる世の中で一番儲かっていると相場では決まっている。
篠岡がテーブルに水道水を出しながら少し淋しそうに答えた。
「ええ。ないんです。私たちは、独自の研究をしています。地球連合政府と言えど・・・不況は不況なんですよ。研究資金も何も分配されません。」
「だから、自腹切って自分の研究するしかないんだよ・・・。そうすると、どうしても毎日の暮らしにも困るようにはなるし研究も進まないしで・・・最悪だ。」
湯木がお手上げ、とばかりに床に寝転んだ。
篠岡が大きなため息をついた。湯木ががばっと起き上がった。
「『VAIO』についてだって・・・本当ならもっとわかっているはずなんだ。何もかも行動が遅いから・・・こんなに取り返しのつかない事になってるんだ。」
「上の人間はそろって無能ぞろいか?」
「おそらくな。」
湯木は笑った。にしても、地球連合政府の上のほうがそうだったのか・・・。
俺はてっきり湯木が無能なのかと思っていた。だが、もっと上のポストの奴が無能だと言うことは、完璧に地球連合政府は頼りにできないということだな・・・。
「で、今日調べに行った成果だが・・・」
湯木の言葉に俺も篠岡も顔をあげた。
「まず、どこに調べに行っていたかというと、俺の知り合いに『VAIO』を研究している仲藤っていう奴がいるんだ。と言っても、政府の人間じゃなくて、自分の個人的に研究しているんだが。そいつ家がこの国随一の金持ちなんだよ。仲藤財閥って知ってるだろ?あそこの社長がそいつの親父だよ。まあ、だから、金に殆ど上限が無いんだ。つまり研究も進む。で、俺は仲藤に依頼していたんだ。『VAIO』の発生条件についてを。」
俺も篠岡も静かに湯木を見つめた。
湯木は水を一口飲んで、また話し出した。
「本当は、あと1週間前ぐらいに結果がわかるはずだったんだ。だが、仲藤が『VAIO』に感染してな。だから、今日になった。そして・・・『VAIO』の発生条件はもう一つあることがわかった。」
湯木は面白そうにもったいぶって俺たちを見回した。篠岡が口をはさんだ。
「今まであった発生条件っていうのは、感染者が寿命で死んだ時に、肉塊から復活というか・・・再び出てくる、っていうのと最初に科学者の水無月博士が作った作り方だけでしたよね?ということは、3つ目、ということですか?」
湯木は嬉しそうに大きく頷いた。
「そうだ。水無月博士の作り方は誰も知らない。彼以外は未だに遺伝子操作を勝手にする移植物の作り方なんてわからない。そして前者だったら、最初に水無月氏が作った個体数5000体は越える事はない・・・。だが、今隔離施設にいるだけで・・・えっと・・・?」
「6465人だ。」
すかさず俺が答えた。湯木がにやっと笑った。
「そうそう。6465人。明らかに、おかしい。最初に作った個体数を遥かに越えている。そこでもう一つの発生方法があることがわかったんだ。それは――――――――――
『VAIO』の毒で殺された人間の腐敗だ。」
俺も篠岡も絶句した。
「『VAIO』の毒で殺された人間。そいつらを火葬したりしたら生まれないんだよ。新しい『VAIO』は。だけど、毒を怖れたりして近寄らないでそのまま腐敗させたとき。まだそこまで詳しい事はわかっていないんだが、体のどこかの部分が腐敗してしまったとき、『VAIO』が発生する。」
ガチャンッ
篠岡が水を飲もうとして震える手でコップを持ったため、コップは落ちて割れた。
床が濡れた。
篠岡が頭を抱えて叫んだ。
「・・・そんなの!そんなの、じゃあこの世の中に今いる『VAIO』の数は殆ど無限じゃないですか!?」
「そうだ・・・。皆、『VAIO』の毒で死んだ人間になんか触りたがらないからな。」
湯木は平気な顔をして水を飲んでいたが、肩が震えているのが見えた。
きっとこいつも最初にその仲藤とかいう人間に聞いたときは、そうやって叫んだのだろう・・・。
「で、これが仲藤が書き残した書類だ。」
そうやって湯木はかなり分厚い研究資料の束を見せた。
「書き残した?」
俺はその言葉に何か引っかかるものを感じ、そう聞いた。
湯木はいつものように肩を竦めた。
「仲藤が『VAIO』に感染した、って言っただろ?だから、俺とは直接もう喋れなかったんだよ。それをわかっていて、あいつは研究施設から出て行ったらしい。俺にコレだけ書き残してな。」
研究資料を見せてもらった。
どれも効率の良いものばかり・・・。自分で『VAIO』の毒に殺られた死体の肉を切り取ったり、死体をそのまま持って帰ってきたこともあるようだ。
そして、おそらくその死体から発生した『VAIO』に感染したのだろう。
「イイヤツだったんだけどな・・・。いつ顔を見て喋れる日が来るんだろうな・・・。」
湯木が遠い目をして呟いた。
俺にはその言葉がやけに耳について離れなかった。







コメント:
2002.12.08.UP☆★☆
会話ばっかりでまとまりない〜・・・。
でもこの事項を説明するには・・・(言い訳うんぬんかんぬん)
仲藤〜vちょっと好きなキャラ。
きっとそのうち思いも寄らないところで出会うと思いますっvvv
『VAIO』によって殺された人間。生かされてる人間。それを見ているだけしか出来ない人間。
誰が一番“可哀想”なんだろうか・・・???なんて思ってみたりして・・・。




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