VAIO21 歩く道、色々『VAIO』についての情報を交換し合った。 だが、湯木に言われた最も嬉しかった言葉はこれだった。 「・・・とにかく、もういいから、敬語を使うな。」 その言葉を聞いた瞬間、無理していた俺は敬語を捨てた。 「はい。自動修復機だ。・・・だけどどうするんだ?どうやって隔離施設まで帰る?」 政府本部ビルに到着し、いつもと違う場所から湯木は自動修復機を取り出した。 正方形のスイッチのついた機械。吸盤が片方の側面に4つ付いている。これで修復する機械にくっ付く。 そして吸盤の真ん中についている端末から修復コードを機械に入力してくれる。 ほぼどんな機械にも対応できるが、欠点があるとすれば古すぎる機械は修復コードなるものが無いからこの自動修復機も意味が無いということだろう。 大きさは胸の前で手を広げて持てるぐらいだ。重さは・・・なんとか持てるが女には辛いかもしれない。 いつもだったら車の後ろに放り込んで終わりだっただろう。 いつもだったら。 「・・・どうするか・・・。取り敢えず歩いて帰るつもりだ。」 湯木は大げさに溜息をついた。 「おまえなぁ〜???一体どれだけの距離があると思ってるんだ?しかも山登らなきゃならんぞ?」 「だけど、他に何が方法としてある?」 「・・・・・・」 湯木は黙ってしまった。そして再び、溜息をついた。 「まぁ、止められないな。だけど、鷹多君、一つだけいく前に聞いても良いか?」 「ああ。」 湯木はじっと俺の瞳を見据えた。 「さっき一瞬口にした・・・"ユキ"って、誰だ?」 駄目だった。 その質問は予想していた。 何があっても動じるものかと意識を固めていた。 だけど、俺の鼓動は数万倍にも早くなり、呼吸も荒くなってきた。目の色も恐らく違うだろう。 必死に隠そうとしてもそれは隠しきれなかった。 そしてやはり湯木にそれがばれていた。 「・・・そんなに動揺するのか・・・」 やばい。また吐血する。気持ち悪い。 雪を想うと俺は病気になる。 『VAIO』じゃなければ死んでいるかもしれない。 だが、湯木はさらに追い討ちをかけてきた。 「・・・・水無月・・・雪・・・だろう?鷹多君の"ユキ"、っていうのは。」 「なっ・・・」 ・・・・・・・・・・・・・ 言葉が続かなかった。 どうして、湯木が。どうして、雪を? "水無月"というのは雪の名字だ。 どうして、知っているんだ? どうして。なぜ? 俺は必死に口を動かしていた。だが、声が出ない。 湯木はそんな俺の様子を見かねてか、続きを喋りだした。 「政府が、『VAIO』隔離施設っていう重要なモノを託す人間について調べないとでも思うか? 鷹多君がどこで生まれてどう育って、学歴、両親の職業、性格、享年、兄の穂のことや弟の都(みやこ)のこと。 そして・・・ 恋人であった"水無月雪"のこと。全て調べてあった。・・・鷹多君が『VAIO』であるということを除いてな。」 ・・・・・・せ・・・・・いふ・・・・・・・を・・・・・・甘く・・・・・見ていた・・・・・。 政府が隔離施設建設当初、俺の事を色々嗅ぎ回っているのは知っていた。 だが、まさか雪のことまで。まさか。 俺には信じられなかったが、湯木はなおも続けた。 「"水無月雪"。性別女。享年23歳。出身校生清(せいせい)大学。元は"茶道雪"。 中学入学と同時に母親の"梅乃(うめの)"が離婚、そして再婚。前々から浮気して作った娘、"結加"やその後生まれた妹との3人姉妹。 再婚後の父親の"水無月結浩"(みなづきゆいひろ)が・・・『VAIO』を開発。」 湯木は俺をまたじっと見つめた。 俺は湯木から目をそらした。 見ていられなかった。 「・・・違っているか?」 湯木は、さっきまでの淡々とした口調とは裏腹に、今度は諭すようにそう呟いた。 ・・・何も、違っていなかった。 俺はようやく声が出た。 「何も、違っていない・・・。俺が説明できるのもそれだけだ。」 そして湯木の部屋のソファから立ち上がった。 「時間かかるからもう行く。」 「俺も途中まで行く。どうせ駅までは歩きなんだ。道中一緒の道のりだろう?」 湯木がにやりと笑いながらせかせかと電気を消した。 そしてエレベーターが来る頃には俺の隣に立っていた。 「鷹多君も同じ大学だよな。そしてそれまでに接点は無い。ということは2人は大学で出会ったんだよな?馴れ初めとか、話してみてくれよ。」 湯木が俺に向かってそう言った。 俺はそんなことを話す気にはなれなかったが、何か言わないといつまでもこいつはしつこくついてくるだろう・・・。 「俺は大学の入学式のあとの新入生歓迎パーティーで雪と出会った。そして大学を卒業して定職につくまでの小遣い稼ぎの仕事の間、『VAIO』にやられて死んだ。それで、終わりだ。」 俺は湯木の方を見ないようにして喋った。 今、湯木がもし俺の顔を見たら・・・吹き出したかも知れない。 雪への想いで破裂しそうな心を必死に抑えていたから、まともな顔はしていなかった。 誰もいなかったら、「愛している」と大声で叫びたかった。 雪の名前を大声で呼びたかった。 そして泣きたかった。 湯木は俺がこれ以上は絶対言わないということがわかったのか、もう訊くことは諦めたようだった。 コメント: 2003.01.04.UP☆★☆ というわけで新年初☆「VAIO」です。今年も皆さんよろしくお願いしますv ななんと湯木に雪のことがばれていたっ!!!という展開? にしても・・・文字だからいいけど、声に出していたら混乱しそうです。(笑)(“ゆき”と“ゆき”だからね;) ヤバいっすね・・・悠、マジ雪依存症なのがボロがどんどんでてます。 そして、雪についての色々事項・・・説明、初めてですかね??? まぁ・・・みんなそれぞれ過去があるんですよ・・・(意味深・笑) |