VAIO22


政府本部ビルを出て、5分ぐらい足った頃、だった。
「俺も、恋人がいたんだよ・・・。『VAIO』にヤられて死んだけどな。」
そう言って、自嘲気味に湯木は笑った。
俺は少し心が戻ってきたのと、初めて聞いた事への驚きで、湯木を見つめた。
「俺なりに本気で愛していたよ。だけど、あいつは何で『VAIO』の毒に遭ったと思うか?」
「・・・道路を感染者が歩いていたのか?」
「いや。違うんだ。
・・・俺が政府に勤め始めて・・・俺は『VAIO』科だろう?それなのに地球政府の予算には研究費が無い。
つまり自分の身を削らなきゃならなかったんだ。だから、研究資料を家に持ち込むこともあった。
その中に・・・『VAIO』の毒が入っている密閉された試験管があったんだ。」
湯木は微笑を浮かべて、俺と目を合わせた。
「恋人が、それを割ったのか?」
確かにそれはやり切れない・・・。そう思いながら俺は湯木に訊いた。
だが、現実はさらに過酷だった。
「『VAIO』科というのは、『VAIO』の毒で死んだ人間の遺体が発見されたら皆に連絡が行って、駆けつける、ということもあった。
あの日も、それだった。
俺は家でマスクを取り付けていたら―――――そうしないと毒が現場に残っている可能性があるからな―――――あいつは、そんな慌しい時に俺の部屋にやってきたんだ。
そして、何か気が立っていたのかもしれない・・・。急にヒステリックに叫んだ。
『どうしていつもいつも仕事なの!?私と一緒にもっといてよ!』ってな。
だけど・・・俺にはそんな時間は無かった。
一言謝って行こうとしたら、あいつは物を投げてきた。俺の側には研究資料がたくさん置いてある。
そんな中に皿とか投げられたら・・・後片付けがどれだけ大変か。
俺はあいつを黙らせるために・・・適当にその辺にあったものを投げつけた。」
「・・・・・・」
もう、先を予測しきった。そんな俺の様子を、湯木はしっかり理解していた。
「それが、あの試験管だった。俺だけマスクをしていたから助かった。そういうわけさ。ちなみに、あいつの遺体は研究資料にさせてもらったよ。死のうとしたけど死ねなかった。死ぬ勇気が無かった。」
空を呆然と見上げる湯木。
今やその顔には笑顔は消え果ていた。
「あいつは最後の言葉を残して死んだ。ひたすら謝って、『自分を責めるな』とそう言って、死んだ。
俺は、普通にあいつを殺したんだ。それを政府本部の役人に言った。だが、事故として処理された。」
話しながらももちろん歩みは緩めない。
駅が見えてきた。
「そして今、俺はここにいる。・・・篠岡君は、あいつに似たところがある。だから何となく憎めない。」
湯木はそう言うと・・・再び笑った。
「鷹多君、"水無月雪"は・・・・・・絶対に何かある。水無月博士の娘だ。あの生物狂学者が、自分の娘に・・・しかも自分の血が入っていない娘に、何もしないで置いておくとはおもえない。」
駅に着いた。
湯木が立ち止まった。
「じゃあ、ここでお別れだ。・・・まだ道のりは長いが、頑張れよ!」
「ああ。」
「じゃあなっ!」
湯木は俺に背を向けて切符売り場へ歩いて行った。俺はぼうっとそれを見ていた。
これから、無限のように長い時間・・・歩き通さなければならないのか・・・。
タクシーは、俺の顔を見ると逃げ出す・・・。
前、隔離施設前まで嫌がる運転手を無理やりに行かせたら毒で死んでしまったからな・・・。
でも、雪に会えない辛さに比べたら。
こんなもの・・・比でもない。
俺はそう思いなおし、静かに駅に背を向け、歩き出した。


「"道のりは長い"っていうか・・・長すぎだろ・・・。」
あれから数時間。俺は夜通し歩いていた。東の空が明るみ始めた。
だが、未だにここはただの平地。
東京の『政府本部』という地名の中から抜け出せていない。
つまり、歩かなければいけない距離の10分の1も過ぎていないということだ。
いつもならBMWのマークのついた改造車でぶっとばしているから、ここまで長かったなんて感じなかった。
どうしてか、かなり足がだるい。
・・・久しぶりに戦ったからか・・・?
しかも今は、両腕で自動修復機を抱えている。
とにかくそろそろ体力が尽きてきていた。
「アシがないとここまで辛いのか・・・」
『D-VAIO』たちの狙いなのか。・・・本当に隔離施設に着けるのか。
俺はだんだんマイナス思考になってきた。
「・・・やばいな・・・」
顔を顰めると、自動修復機を持ち直した。
マイナスに考えても何もいいことはない。それは痛いほどわかっていた。
雪に、会えなくなる。
それの方が何よりも辛いじゃないか・・・!
俺は自分にそう言い聞かせ、また歩き出した。
だが、精神力は残っていても、もう体力は・・・完璧に無かった。
ガチャン
俺は前のめりに倒れこんだ。自動修復機が少し嫌な音を立てた。
「帰る・・・俺は、帰る・・・雪に・・・・・・雪のもとへ・・・」
そう呟きながら、俺は気を失った。








コメント:
2003.01.10.UP☆★☆
湯木の過去話〜vvv
だけど、それに対する悠の感想無しですね。(苦笑)
はっきり言ってしまえば、“興味ない”っていうことらしいです。(らしい、ってォィ)
まー・・・それに関するお話はまた・・・後々・・・。
取り敢えず隔離施設に帰らなきゃ行けないですけど・・・倒れちゃいました・・・♪
次回は新人が、・・・出るかも・・・v(ぉ)




23話へ。

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