VAIO27


「雪ッ!!!」
みつあみの髪の毛の・・・男・・・が、いきなり水無月に抱きついた。
「!?な、誰・・・ってまことっ!?・・・びっくりしたー。何よ〜。」
「やーっ・・・」
水無月の髪の毛をわしゃわしゃと撫で回す。
「やっと雪を見つけれたなぁって。オマエ追っかけておれはこの大学に入ったんだぞぉ。」
「マジ?」
「あぁー。」
そしてまた、ぎゅーっと水無月を抱きしめた。
「凄いね?確か高校退学手前まで行ったんじゃ・・・」
「おぅ!愛があれば大丈夫!」
「んなアホな・・・」
雪は阿呆なことを言う"まこと"と呼ばれる男に、屈託の無い笑顔を見せた。
「ぅわ・・・大胆やなー・・・」
「凄いよねぇ〜」
廊下を行き交う奴らがそう呟きながら歩いていく。
「でも、男の方・・・ちょっとガラ悪そうだよね?」
「あの水無月雪っていう女のほうが悪いらしいよ。」
「あ、私も聞いたことある。暴走族とか・・・」
「しかもトップだったって聞いたよ。」
「マジ・・・?大学、やめてくれないかな・・・」
ぷつん
周りの無責任なギャラリー。
俺が切れるのも・・・当然だった。
いや、当然なのか?
当然なはずがない。
俺にとっては。
たかが一人の女のために。
この俺が。俺が・・・。
だけど、その時は・・・そんな疑問を持つよりも、
水無月を軽蔑した奴らへの怒りで、・・・要するに、我を忘れていた。
それにあの三つ編みの男・・・"まこと"への怒りもそれに拍車をかけた。
「貴様、今のセリフをもう一度言えるか・・・?」
最後の言葉を言った通りがかりの女の肩を掴んで俺は言った。
「なっ・・・あんた、誰よっ。」
「黙れ。・・・お前がどれだけの人間なんだ・・・?」
俺はその女の首を左手で掴んだ。
「っかっ・・・」
「謝れ・・・」
「んっ・・・くっ・・・」
女の顔がみるみる赤くなっていく。周りの人間は何も出来ない。
「水無月に、謝れ!」
「はーくんっ!!!」
俺が、その言葉を発すると同時に、水無月が叫んで俺に飛びついた。
「駄目だって!いいから、そんなのっ・・・言われ慣れてるからっ・・・」
必死で言う。
俺は・・・水無月の言葉と水無月の感触で、我に返った。
左手を緩めた。
「うぅ・・・」
「大丈夫?」
水無月が声を掛けながら、駆け寄り、座った。
「うん・・・」
女がか細い声で頷く。
水無月は、女が大丈夫なのを確認してから、立ち上がった。
「はーくん・・・じゃない、鷹多さん。・・・どうして?何で・・・」
「水無月は、どうして言われ慣れてるなんて言えるんだ・・・?腹が立たないのか?」
俺は、怒りが困惑に変わっていた。
水無月の質問をまるっきり無視して、俺が水無月に訊いた。
「そんなわけない。私は別に聖人君子なわけじゃないし。人間だもの。腹が立たないわけじゃない・・・。けど、いいのよ。実力で見返してやればいいんだから・・・」
水無月は後ろを振り返りながら言った。
「あーいう人たちはね、実力で勝てないからあーいうことを言うの。それが分かってるから。」
俺の方をもう一度見ると、・・・純粋な笑顔を浮かべた。
意地悪いとか、そういうことは全くない。
ただ、そう思うから。
だから水無月はそういう行動をとれたんだ。
「でも・・・(まこと)じゃなくて鷹多さんが怒ってくれるとはねーっ」
「あー・・・そうだ。その聖とか言う奴は・・・」
「いるよ。」
俺が水無月の言葉に少し動揺しながら話を変えようとしてその男の名前を出すと、水無月の後ろから三つ編みの男が現れた。
「ったく・・・。せっかくの抱擁の時を・・・。ってか、お前誰だ?」
「鷹多悠。・・・同じ教育学部だよ。あんたは・・・?」
「おれは蛭川(ひるかわ)(まこと)。教育学部。っていうかここは教育学部以外は低いだろうが・・・」
そう言って苦笑した。
でもその男は決して頭が良さそうには見えなかった。
まあ俺も人のことは言えないだろうが。
「で、鷹多サン。あんた雪のなんなわけ?雪の為に人殺しまでしちゃおうとしてさ?」
「別に・・・」
「はーくん。」
俺が、内心の動揺を悟られないようにしようと蛭川から目を逸らしたら、俺の目の前に水無月がいきなり割り込み、俺のことをそう呼んだ。
蛭川が目を丸くして俺たちを見つめた。
「・・・」
「鷹多さん、やっぱり・・・"はーくん"でしょ?だから、私を庇ってくれたんでしょ?」
水無月が俺に詰め寄る。そんな水無月に蛭川が今度は訊く。
「どういうことだ?何、そんな仲なのか?」
蛭川の動揺しまくったその言葉に、水無月は顔だけ蛭川の方を向けて、答えた。
「この人は、私の幼馴染・・・」
「違う!」
俺は水無月の言葉に叫んだ。自分でも驚くぐらいの大声で。
「違う。俺は、水無月とは知り合いじゃない。」
「そんなの、そんなの違うっ!!!」
少しトーンを落とすことの出来た俺の言葉に今度は水無月が叫んだ。
「違うもんっ違う、絶対に違う・・・あなたは・・・はーくん・・・」
水無月はそれだけを繰り返して、それ以外の言葉を聞こうとしなかった。
「知らん・・・。・・・もういい・・・」
俺は、できるだけ水無月のほうを見ないようにしてその場を離れようとした。
「私は、あなたを・・・絶対にはーくんって呼ぶからねっ・・・」
そう、俺の背中に水無月が叫んだ。
「勝手にしろ・・・」
水無月には聞こえないとは思いながら、俺は呟いた。
嘘を、吐いてしまえばよかった。
俺が水無月の幼馴染のフリをしてしまえば・・・
水無月はもっと温かく接してくれるだろう・・・。
俺はそこまで考えて、また・・・我に返った。
何を考えてるんだ。
何を考えてるんだ。
俺は、"タカダハルカ"だ。
"はーくん"じゃない・・・"鷹多悠"なんだ。
それでも・・・それでも・・・"鷹多悠"という名前を捨てたとしても・・・
水無月雪と一緒にいたい・・・
もう、無理だ。
俺は、気付いた。
やっと気付いた。
この気持ちに。






コメント:
2003.02.21.UP☆★☆
はい・・・、また過去。。。ここまで来たらもぉ突っ走っちゃえ☆(ぉぃ)
ただの過去の話。何の変哲もないただの過去の話。
悠の気持ちを追ってるだけっすねー。あっはは〜(汗)
全然物語進んでないじゃんっ!あー馬鹿でした。




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