VAIO35

“皓は、自分でコントロール可能な『VAIO』を作ってるわ。”
結菜の言葉が脳裏に焼きついている。
コントロール可能な『VAIO』…。俺には、心当たりが合った。
『D-VAIO』だ。
ヨシヒサたち…。『D-VAIO』感染者は、感染前と人格が完璧に変わった。
それが、もしコントロール可能な『VAIO』だとしたら。
とんでもなかった…!!!"DESTROY"の本当の意味。
俺は、てっきり"世界の破壊"だと思っていた。
でも、違う。
『D-VAIO』が水無月皓によってコントロール可能な『VAIO』だとしたら。
奴らの狙いは…"人格の破壊"か…?
破壊を求めてどうするというんだ?結菜を愛すが故に?
たった一人の人間さえいてくれれば、他の奴らは死んでもいいと思う気持ちはわかる。
嫌なほどわかる。痛いほどわかる。
だったら、どうしろというんだ…!?
頭痛がしてきたとき、俺の目に隔離施設が見えた。
「……帰るか…」
もう、色々と考えるのが嫌になった。
とにかく、雪に会いたい。雪の姿を見たい。
それだけだった。
 
 
「ハルカぁあああああっ!!!」
「ハルカ〜っ…」
「ハルカ、ハルカ!!!」
玄関を開けると、どわっと…何人だ?飛びついてきた。
「どうした?」
「どうした?って、ハルカが1日隔離施設に帰ってこなかったことなんてなかったじゃないかぁ!」
一番鼻水たらして泣いているのは、祐爾だった。
「ぅえ〜ん、ハルカぁ…」
結希も、側で泣いていた。
…結希に、言わなければいかんな…
俺は目を細めて結希を見つめた。
そして、周りをぐるっと見回しながら謝った。
「すまんな。」
「全く、心配したわよ…」
「ハルカがいなくなったら、うちらはどうすればいいわけぇ?」
「あー…ドキドキした…」
周りを見れば、人、人、人。
共有冷蔵庫のある大広場の次に大きい玄関ホールにぎっしり人がいた。
こいつらは…俺を、必要としているんだ。
俺が、『VAIO』と『VAIO』感染者を滅亡させることが出来るとも知らないで。
「…るかっ、はるかっ、はるかぁあっ!!!」
人ごみを掻き分けて出てきたのは、結加だった。
「悠…。よかった、帰ってきたのね…」
「…すまん。」
「ううん、いいの。…私のせいかと思ったから…」
「結加のせい?」
「うん。あのね…」
「結加お姉ちゃん!?」
結加がちょっと微笑を浮かべて喋ろうとしたとき、その言葉を遮る者がいた。
俺は、それが誰だか瞬時にわかった。
結加の表情は驚愕の表情に変わる。
「…嘘…結希!?」
「結加お姉ちゃんなんだね…!?本当に、結加お姉ちゃんなんだね!?」
「結希、…そっか、感染したらみんなここに来るのよね…!」
「結加お姉ちゃん…」
「結希…」
姉妹は抱きしめあった。
…ということは、本物か…。結希は雪の妹なんだな…。
だけど、3人とも父親が違う…。
雪と結加は母親似だな…結希はよくわからないが、おそらく父親似だろう…。
「あ、悠、私と結希ね、姉妹なの!!!」
「そうなの!ハルカ、姉妹なの!!!」
2人が活き活きとして俺に言った。周りの連中も、心なしか笑顔だ。
…でも、こう言った"感動の再開"はここではよくあることだ。
なぜなら、『VAIO』隔離施設は、…世界に1つしかないのだから…。
「結加、結希、…よかったな。」
『うん!!!』
「…ついでに、2人に話があるんだが。」
「あ、私もあるの!」
結加のその言葉は意外だった。俺が目を丸くしてると結加はにやにやと笑った。
「…お姉ちゃんのところ、行かない?」
「雪お姉ちゃんもいるの!?」
「そうよ〜。」
結加の言葉に俺はびくっと体を震わせたが、結希の声に皆気を取られ、気付かれなかった。
「…ね、行こうよ。お姉ちゃんのところに。」
「そうだな…」
 
雪―――――…
 
 
 
  +  +  +
 
 
暗い闇の中、男は走っていた。とある家に入ってから、地下室に潜り込んだ。
一つのドアが見える。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」
ガチャッ
「…仲藤君か?」
「博士…わかりました…毒の出ない『VAIO』の秘密が…」
「…その前に、君の治療をしようか。…鷹多悠か?」
「…っ、そうです…。なぜ、『VAIO』の俺たちが…」
「あいつを含め、この世の中で私以外に3人の人間が、それをできる。」
博士と呼ばれた男は、大きな機械ににカードを差し込みながらそう言った。
「なっ…!?それは、一体…?」
「毒の出ない『VAIO』たちだよ。」
仲藤は、その機械と連結している箱のようなものの中に寝転んだ。
「そんな…!?なら、毒の出ない『VAIO』は不特定多数じゃないのですか…!?」
「不特定多数?」
「僕は、てっきり…感情のない人間に取り付いた『VAIO』が毒無しになるのかと…」
「それはないな。それをしたら、どれだけの人間が毒無しになるんだ。」
落胆の表情を浮かべた仲藤を見下ろすと、"博士"はその箱のようなものに透明な蓋を閉めた。
エンターキーが押される。箱の中が淡い緑色に光った。
…まるで、『VAIO』の毒液の色だ。
「…仲藤が鷹多悠に接触か…。そろそろ動き出したか…?あいつも…復活させたし…」
この部屋は、機械だらけだった。壁、…天井。
だが、この隣にはただの研究室のようなところがあった。
…そこには、小さな小さな『VAIO』が…沢山あった。
"博士"は呟いた。
「結菜…もう少しで、俺たちの理想郷が…出来上がる…」
"博士"の笑みは、何よりも幸せそうだった。
  +  +  +
 
 

 
 
「はるか…」
結加に連れられて、俺の作った小さな地下室に入った。
「はるか…」
これは、夢か?
「もう、悠ぁ!!!」
怒ったように頬を膨らましている。
「へへへ、びっくりした?」
結加がニヤニヤしながら俺の顔を、覗く。
これは、夢か?
夢なら…二度と覚めなくてもいい。
「ハルカ?大丈夫???」
結希が心配そうに俺の顔を、覗く。
俺は硬直していた。
夢じゃないのか?
「悠…。ずっと会いたかったんだから、何か言ってくれてもいいでしょぉ!?」

 
雪が膨れっ面しながら俺の顔を、覗く。
 
「雪っ…」
「ぅひゃ!?」
結加の目も気にせず、結希の目も気にせず、俺は雪を抱きしめた。
「雪、雪、雪…雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪雪っ…」

狂ったように雪の名前を連呼する。
結加に連れられて、管理人室下の地下室にやってきた。
そこで俺たちを迎えたのは、…笑顔の、雪だった。
信じられない。意味がわからない。
でも、今はとにかく理由なんてどうでもいい。
雪が生き返った。蘇生した。
 
生きている…
 
「悠、苦しいよ〜」
雪の非難の声も気にしない。
「ぅひゃ〜…私、凄い場面見てる?」
「悠は…よっぽどお姉ちゃんが好きなんだね…」
結希と結加の声も気にしない。
俺が雪をどれだけ想っているか。
俺が雪をどれだけ欲しているか。
俺が雪をどれだけ大切にしているか。
俺が雪をどれだけ抱きしめたいか。
俺が雪にどれだけ依存しているか。
 
俺が雪をどれだけ愛しているか。
 
それを、見るがいい。
それを、見るがいい。
俺は雪がいれば他には何もいらないと思った。
『VAIO』の毒液で体が腐らないことは知った。実行した。
だが、幾つもの死体が液から出たあと、真っ白に硬直して、砕けた。
だから俺は恐ろしくて雪を液から出せなかった。
液から出さないと、復活はしない。それはわかっていた。
だけれど、俺は雪を液から出して実験することなんて出来なかった。
 
雪を失うのが怖かった。
もう一度雪を失うのが怖かった。
 
その雪が、今、ここにいる。
息してる生きてる俺の腕の中にいる。
これ以上の喜びが、どこにあるというのか俺にはわからない。
愛しているんだ。愛しているんだ。
「私たち、帰ろっか…?」
「そだね…ハルカたち、2人っきりがいいよね。」
結加と結希がいなくなった。
そんなことどうでもよかった。
「ね、悠…」
「何だ…?」
「やっと、会えたね。」
「俺はずっと雪に会っていたぞ…」
「ん〜ん、会えてなかったの。今、会えたの。悠の感触、悠の匂い、悠の味。全部、久しぶり…」
雪の方から、ぎゅーっと俺を抱きしめた。
「雪…」
「あの頃、幸せだったよ、わたし…。だから死ぬとき、ありがとうって言ったの…」
俺の胸に顔をうずめる。
「だけど、淋しかったよ…怖かったよ…。だから、今…本当に嬉しいの…」
雪の嗚咽が聞こえた。
「本当はね、ずっと、喋ることは出来たの。だけど…悠に愛想つかされてたらどうしようって…何も、出来なかったの。」
「そんな、俺が…」
「わかってる。結加に全部聞いたわ…。でも、やっぱり不安だったの…。だけど、結加は時間をかけてずっと私に向かって悠がどれだけ私を想ってくれてるか、言ってくれたから…」
少し、体を離した。そして俺の顔をじっと見上げた。
「私、チューブを自分で抜き取ったの。体が動いたわ。いけると思った。そして、結加にフタを外して貰って…復活、できたの!」
にこっと、屈託のない笑顔を浮かべる、雪。
そうだ。俺はこの笑顔のために、今まで生きていたんだ。
この笑顔をもう一度見るために。雪のために。
「ね、…悠、また、私と一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ…」
「ね、…悠、私のこと…まだ愛してくれてる?」
「当たり前だろ…」
「ちゃんと、言って。」
雪はにやっと笑った。ちょっと悪戯を思いついたような笑み。
俺は…自分ではわからないが、おそらく赤面していたに違いない。
でも、今、言わなきゃ、また、後悔する。
俺は自分の指輪を意識して、唾を飲み込んだ。
「愛してるよ…雪…」
「私も、悠を愛してる。また、よろしくね。」
屈託のない笑顔。俺はもう抑えられなかった。
そっと雪の顔を引き寄せる。雪から抵抗している感じは受けなかった。
優しく、唇を合わせた。
 
 
 

"愛してる…―――――"


 
 
雪の左耳の逆十字のピアスが妖しく光ったのに俺は気がつかなかった。
 
 
 
 

 
コメント:
2003.04.13.UP☆★☆
ぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!
はい、第一部完!って感じですね!
第一部を要約すると…『VAIO』&『VAIO』感染者&『VAIO』隔離施設の説明。
鷹多悠&水無月雪などの説明。悠の雪への想いの重さ。周りの人間たちの説明。
『D-VAIO』の出現。政府の役割。
…そして、水無月雪の復活。…でした。
はっきり言って、物凄く説明中心だったので、…わかりにくかったです。
っていうか途切れ途切れで…。書きたいことはあるのにまとまってない状態、っていうんでしょうね。。。
スランプのときも常に書いていたのでそのときの文は読みたくありません。
っていうか、そのときの「ノリ」で書いていたのであとから矛盾の皺寄せが大変でした。(爆)
…にしても、続きますねー、このお話は。
たまぁに息切れして、「もう強制終了したい〜!」って言ったこともありましたが、
友人Aに「オイ!」と突っ込まれて立ち直りました☆ありがたや。
伏線を張りに張りました。…これを、第2部でどれだけ解決できるか、ですよね。
応援してくださってる皆さん、本当にありがとうございます。
「VAIO」はまだまだ続きますが、これからもよろしくお願いします!!!
 
777GETの竹中一馬様☆こんなに続いてしまって申し訳ないです!!!
これからも見捨てないでやってくだされ!では、また第2部で♪♪♪


 

36話へ。:第2部スタート。
 
□ Home □ Story-Top □ 連載小説Top □