V A I O 36 〜第2部〜

 
「最近…ハルカ、おかしいよね…」
「でも、…幸せそう。」
「こっちの方がよかったんじゃないの?」
「でも、ハルカのクールなイメージがぁぁ…。」
『VAIO』隔離施設の人々の意見は、まちまちだった。
それは、管理人鷹多悠…そう、俺の変貌によるものだった。
でも、当の俺といったら、そんなもの全く気にならずに、自分の想うがままに行動している。
「はーくんっ、ねね、こっち手伝って〜。」
「わかった。すぐ行く。」
俺の変貌の原因が俺を呼ぶ。俺は即答。
…でも、俺はそんなに変わったか?
別に急にオカマになったわけでもない。通常通りだ。
…って変貌していても自分では気がつかないか。
俺は他の奴らと共同して作っていた天井の飾りそっちのけで俺の変貌の原因…雪の方へ行った。
「ハルカっ、手、離さないでよ〜〜〜っ」
後ろから避難の声がする。…俺はもちろん無視。
悪いな。俺は、雪以外の人間を雪より優先させるつもりは無い。
「あのね、星に手が届かなくって…」
「ってかな、これ、3mあるんだぞ?俺でも手は届かん。」
「あははっ、そっかぁ。ごめ〜〜ん。」
ペロっと舌を出す雪。…駄目だ、抱きしめたい。
その衝動を抑えるために、俺は雪の頭をくしゃくしゃっと撫でた。柔らかい髪の毛。気持ちがいい。
「ハルカっ!!」
俺がぽーっと雪と見詰め合っていると、少し離れたところで俺を呼ぶ声がした。…ったく、誰だ。
「何だ?」
「雪だよ、雪っ!」
「雪はここにいるぞ…?」
「ちっがーーーうっ。雪お姉ちゃんじゃなくて、降ってくる雪っ!スノウッ!!!」
そこで叫んだ少女…結希の指差す方を見れば、窓の外に雪が降っている。
「あ…。」
確かに、いくらあまり雪の降らない首都東京とはいえここは山の上。そろそろ降ってもいい頃と思っていた。
「雪だよっ、雪ぃっ!!」
雪が自分の名前を連呼しながら…いや、ちがった。降ってくる雪の名前を連呼しながら、窓に駆け寄る。
「ちょっと待ってくれっ、雪さんっ!!!」
雪と共同作業をしていた1人…怜弥が叫ぶ。雪が自分の仕事を忘れて手を離してしまったため…それは轟音とともに倒れた。
「あああああああああ…。」
今まで必死に飾り付けてきたもの、全てがパーだ。雪は振り返ってそれを見ると、顎元を人差し指で掻きながら、曖昧な笑みを浮かべた。
「…ごめんね☆」
 
「ごめんですまされるかぁぁぁああああっ。」
 
周りからの大ブーイング。まあ、確かにそうである。ここ2ヶ月ぐらいの苦労が、倒れてしまったのだ。
だけれど、俺が雪に対するブーイングを放っておくはずは無い。俺は雪と隔離施設の人々との間に割って入った。
「まぁ…本番クリスマスまではまだあと2週間ある。1人を責めるより、修復を急ごう。」
「…まぁたハルカの雪さん庇いが始まったよ…。」
「誰一人雪さんに怒れないよな。」
「でも、言ってることは正論よね。」
「…やるかっ。」
と、いうわけでそれぞれが自分の持ち場に戻った。雪を救う為なら憎まれ役も何のその。全くもって構わない。
にしても…このツリーは、間に合うか…?
ちょっと、俺も焦ってはいた。なぜなら、本番であるクリスマスまではあと2週間なのだ。
つまり、雪の誕生日まではあと10日とちょっと。日にちが無い。
10月からずっとやってやっとここまで出来たものを…あと2週間で出来るのだろうか。
「クリスマス兼雪の誕生祝いパーティー」の準備は、…進んでいるのかいないのか、わからなかった。
 
 
 
俺は、あれから――雪が復活してから、一通り皆に説明した。
地球連合政府で起こったこと。『VAIO』の増殖条件。…言わなかったのは、結菜と会ったことだけ。
結菜と出会って喋ったことは、水無月3姉妹にだけ、こっそり話した。
"水無月皓"の名前を出した時、3人ともが震えた。
「あの人が…まだ、『VAIO』を…?」
「とっくに諦めたのかと思ってた…。」
「やだ、あの人、怖いっ…。」
誰も父親なんて呼ばない。母親の夫であるから父親のはずなのに。結加に至っては…産みも育ても皓なのに。
にしても、今考えてみると…不思議だ。
結菜は『VAIO』に感染しているんだろう?俺と同じ『VAIO』に。
それなのに、『VAIO』感染後の子ども…結加と結希は、生まれたときは何の異変も無く、ただ、『VAIO』に感染した。
結菜は『VAIO』の感染者の子どものデータがないとか言っていたが、おまえの子どもがそうじゃないか、と言いたい。
まぁ普通の『VAIO』じゃないから当てにならないのかもしれないが…。
雪と結希が席を外した後、結加が俺にこう聞いてきた。
「私、お母さんに嫌われてるでしょう?」
「…?」
「だって、仮にも20年間…かな。一緒に暮らしてたのよ。わからないわけないじゃない。」
「…。」
「それって、やっぱり私が『水無月皓』の娘だから?」
俺は迷ったが、無言で頷くことにした。それは、曲がりもなき真実だったからだ。
「お母さんは私を嫌いでも、私はお母さんが大好きなのに…な。」
泣き始めた。
「ごめん、ごめんね。だけど、やっぱり親に嫌われるって言うのは…。ごめんね、悠、ちょっとごめん。」
俺の胸に抱きついてきた。
子どものようにわんわん声を上げて泣く、結加。
俺はそっと抱きしめてやることしか出来なかった。
 
…そして、後日雪に浮気かどうか尋ねられた。
 
 
雪は、身体に異変が起こることも無く、過ごせた。ただ気になったのはよく右耳を抑えたまま蹲ること。…これは、体の異変か。
どうした?と尋ねても、首を振ってすぐに立ち上がる。理由を言うとしても、「ピアスが痛い」。それだけだ。
でも…このピアスは何があっても取れない。
俺が、雪を『VAIO』毒液に付ける時に、衣服だけでなくアクセサリー類も外そうとしたが…このピアスだけは取れなかった。
耳に埋め込まれているのだ。
こんなことをする相手は1人しかいない。雪の…義理の父親、水無月皓。奴だ。
天才生物狂学者にとっては、これぐらい何てことなくやってしまうのだろう。
でも、何のために?何のためにだ。
俺には、雪の苦痛しかわからなかった。
 
 
そして雪の復活から3ヵ月後の今…
あれ以来『D−VAIO』たちとの衝突も無く、俺たちは平和だった。
だからこそ、俺は言い出したのだ。
雪の誕生日を祝おうと!(…まあ、そう言うと隔離施設内からブーイングが来るから実際はクリスマス・パーティーをすることにしたが)
平和だから出来る計画。
雪がいるから出来る計画。
幸せだった。
結菜の言葉も、湯木の言葉も、忘れかけていた。
ずっとこのままでいたかった。
 
『VAIO』隔離施設の人数は、8000人を超えていた。
 

 
コメント:
2003.07.06.UP☆★☆
はい、『VAIO』第2部スタートっ!!
季節は流れ、流れて3ヵ月後。(あんま流れてないし・苦笑)
12月上旬だと思っていてくれれば幸いです。
第1部と違ってほのぼの感で始まった?「VAIO」。
これから、また書いていきますね〜〜〜っ!


 
37話へ。
 
 
□ Home □ Story-Top □ 連載小説Top □