V A I O 46 ++ ++ ++ 「ねぇ、今度、遊びに行かない?」 私の言葉に、鷹多悠…はーくんは、無言で頷いた。まあ、いつものことなんだけどさ。ちょっと悲しい。 「どこがいい?」 「どこでもいい。」 私から目をそらすようにそう言うはーくん。私は、溜息を吐いた。 そりゃ、ね。何年ものブランクはあるわよ?でも幼馴染じゃない。もっと仲良くしてくれたって…。あ〜あ、5歳の時は「雪ちゃん雪ちゃん」なんて言って一緒にいてくれたのになぁ。ちぇ。 「じゃあ…前と一緒だけど、水族館でいい?」 「ああ。」 何十回にも上るデート…と言えるのかどうかはわからないけど、とにかく2人で出かけたときの分析により、はーくんは水族館が好きであるということが判明している。 今日も水族館、という言葉を出した時、一瞬眉毛が動いた。あ〜、本当にクールなんだから。もっとさ、2人で声上げて喜んだりしたいなっ…って思ってるのは私だけなのかなぁ。高校時代の友達は、皆馬鹿だったから、こーいう大学に来て本当に色々思う。 でもね、流石に19歳の恋愛ってゆーのは、もっと積極的なもんじゃないの?なんかこれじゃ初恋中学生みたい…。 「じゃっ、明日朝9時に駅の東口に集合ね!!!」 私はそれだけ言って、身を翻した。…まあ、今まで一度も約束を反故されたことはないんだけど。 「かわいーっ!!!」 「…。」 私がイルカのいるブースに駆け寄っていくと、はーくんも無言で歩いてついて来た。 「ね、はーくん、かわいいわよねっ!!」 「ああ。」 「あぁ、こっちにジュゴンもいるっ!」 私の興味は全然尽きなかった。だって、はーくん以上に海の生き物が好きなのは、私だもん!! でもまあ、先週も行ったってことで少し飽きも入ってきたからか、前回より早く出てしまった。 「どする?お土産屋、行く?」 「ああ。」 はーくんは何言っても頷くから、私はちょっと剥れながらひとりで先にお土産屋に入った。そこには… 「かわいぃいいいーーーっ!!!」 イルカの人形が、いぃっぱぁーいあったのだっ!!私は、即買うことを決め、何にするかもう迷いに迷っていた。はーくんは、そんな私の光景を後ろからじっと見つめている。 「ねぇ、はーくん、これなんかかわいくない!?」 「そうだな。」 私がはーくんに見せたのは白いイルカ。めちゃくちゃかわいーのっ!…だけど、はーくんはいつもの通り素っ気無く答えただけだった。 はーくんの、ばか。 「私、買ってくるね。この辺にいて。」 「ああ。」 やっぱり休日の水族館。混んでいる。レジに2人も並ぼうとすると…かなり不便。それだけであって、別にはーくんに対して私が拗ねているわけじゃないっ。 私は人ごみ押しのけ掻き分け、レジに並んだ。10分ぐらいしてやっと買えた。 「やっとだよ〜…ってああっ!?」 人ごみの先に見えたはーくんは、見知らぬ女性に捕まっていた。 「ねー君、今暇?ちょっと私と来てよ。」 「…。」 「あ、暇なんだねっ!?やったぁ〜。」 ぐいっ、と腕を引っ張るその女。私が人なんか蹴り倒してはーくんのとこに行こうとしたとき、はーくんは今まで一度も見せた事のないような瞳でその女を見据え、言った。 「…離せ。汚れる。」 「えっ?」 「俺がひとりだと思うのか?女とじゃなきゃ来ないだろう。」 「そりゃ、まぁ…」 「それがわかっているのなら、触るな。俺はあいつ以外の女は人間と認めていない。」 「何それ!?あんた、ちょっと顔がいいからって酷すぎじゃないの!?」 「別に、本心を言っているだけだ。」 私は、震えた。そういえばはーくんって最初に会った時…つまり1年前…私の為に、人を殺そうとしたっけ…? だけど、私は、そうやって他人に冷たくして欲しいわけじゃない。私に優しくして欲しいの。 私は唇を噛み締めて人を掻き分け、ちょっと蹴り倒しもして、はーくんの元へ行った。私がはーくんのところへ着いたとき、女の人はいなくなっていた。 「はーくん、お待たせ。」 「いや。」 「…帰る?」 「ああ。」 いつもの、はーくん。 はーくんが私を想ってくれてることは、たまに、痛いほどよくわかる。だけど、本当に痛い。照れたりするような場じゃない。はーくんは、本当に想っていることをはっきりと口に出してしまう…。 だけど、だけどね。「好きだ」って一言言ってくれたら、私はきっとその場でも誇らしくなるだけなんじゃないかな。私は、誰よりも愛されてますっ…って。 ねえ、はーくん。私に言ってよ。お願いだから。 私からは言えないよ。怖くて。 貴方が怖いんだよ、はーくん。 一度抱きしめてくれたっきり、手も握ってくれない。想いも何も口にしてくれない。 お願い、一言気持ちを私に言ってよ。 そうしないと私は淋しくて痛くて死んでしまうよ…。ねえ、はーくん。 それから何度も一緒に出かけたけど、はーくんは私に何も言ってくれなかった。周りの景色に興味を示さず、ただ私の後ろをついてくるだけ。 私は、19歳の6月。はーくんに詰め寄った――――― 「はーくん、私たち仲がいいわよね。」 「あ、ああ。」 ちょっと動揺している。はーくんの動揺したとこなんて初めて見た。 「はーくんは、私のことどう想ってるの?」 怖かった。怖くて肩がガタガタ震えてた。 「…。」 はーくんは、下を向いた。何も言わずに。 私は瞳に涙が、溜まってきた。 「どうしてはーくんは何も言ってくれないの!?私は、私は…」 手で顔を覆った。こんな顔、これ以上見せていられなかった。 涙でぐしゃぐしゃだった。かっこ悪い。 これでも高校のときは…ちょっと悪い事やってたけど…グループ内じゃ最高の女、って言われて…毎日違う男と遊んでたのに。 大学に来て、たったひとりを好きになってしまって。ううん、高校時代も…いや、5歳のときから、ずっとたったひとりを好きだったから。 その男の一挙一動が私の全てで。そのせいでこんなにかっこ悪くなってしまって。 それでも、それでも好きなのに。愛してるのに。 涙は手だけじゃ覆い隠せず、手を伝って、落ちた。 はーくんが息を飲んでいるような空気が流れた。そういえば、はーくんの前でこうやって泣くのって、初めてかな…。 はーくんの手がそっと私の手を掴んだ。そして手をどかした。 「やっ…見ないでよ。」 涙だらけの顔を見られまいと、私は顔を背けた。けれど、はーくんは私の手を離して、その顔にそっと手を添えた。 そして私の唇にはーくんの唇が重なった。 初めてのキスだった。いや、他の男としたことはあるけど。 だけど、こんなに優しくてどきどきして嬉しくなるのは初めてだった。 ほんの数秒の短いキス。合わせるだけの。 はーくんはじっと私の顔を見ながら言った。 「…好きに決まってるだろーが…」 ちょっと照れたような、怒ったような。そんな言い方だった。 私の瞳からは、また涙が落ちた。 「だから、…泣くな…」 無理だった。私ははーくんの胸に顔を押し付けてわんわん泣いた。だけどさっきの涙とは全然違う涙だった。 「私も、はーくん大好きだからねっ…誰より、大好きだからねっ!!!」 そう叫びながら泣いていたら、はーくんが慌てた声で私にこう言った。 「他の奴が見てるから…な、も少し声落として…」 はーくんは、クールなんじゃない。人一倍不器用なんだ。 想いを素直に表せなくて、感情もうまく表現できなくて。まるで今初めて愛や感情を手に入れたかのように。 そういう人間なんだ。 だから私ははーくんが好きなんだ。 保育園の頃とは全然違う。今のはーくんが、大好き。 誰よりも、愛してる―――――。 ++ ++ ++ 「そんな、馬鹿な話があるか?」 「現にここにあるじゃないっ!!!」 雪は大声で叫んだ。 「はーくんは、私の一言のせいで…錯乱して、お母さんの中にある私を求めてた。だから、この光景とダブらせたのよ!」 「それは、お前の錯覚だ。」 水無月皓の冷たい一言。雪は皓を睨みつけた。 「錯覚でもいい。私は、はーくんが私を…私の姿じゃなくて、私を、雪を愛してくれていると信じるもの!!!」 皓は冷たい瞳で雪を見下ろした。 「ふん…お前がどうしようと、俺には関係ない。ただ、な…」 皓は仲藤を見た。もう目覚めていた仲藤は、ひっと声をあげると後ずさった。 「お前が浮気したという事実は鷹多に確認してもらわんとな。…ここに、仲藤といういい人材もいることだし。」 「まっ、まさかっ…」 「俺はお前の意志で鷹多を傷つけてやろうと思っただけなんだがな?この親心がわからんとは。おとうさんは怒ったから。」 ニヤッ、と笑う皓。その手がパソコンに伸びる。 「俺は残念だが結菜以外の人間は愛せない。悪いな。仲藤で我慢してもらおう。」 「や、やめてよっ!」 「心だけは鷹多の元へあるがいい。」 「やめてよっ!!!」 しかし、そう叫ぶ雪の身体から力はどんどん抜けていっていた。 ―――――悠、助けて…。 コメント: 2003.09.21.UP☆★☆ ふわ、やっべー展開ッ!!! しかも過去話その辺のメロドラマかよ! 素直じゃなくて不器用なはーくんを書きたかったんだ…(悔) |