V A I O 78 「―――――雪・・・」 最初に目に入ってきたのは、俺の大切な人。 「はるか―――――はるかぁっ!!!!!」 そう、『俺』は鷹多悠。 「俺は、生きてるのか・・・」 何か変な感じがした。 「結菜も死んだか。」 「はるかぁああああっ!!!」 雪が俺に抱きついてきた。わんわん泣いている。 「どうした、雪――?」 「だって、悠・・・死んだかと、思ったの!!」 「あぁ。」 俺はぼーっと上を見た。 「死んでたんだと思う。」 「何言ってるの?生きてるじゃない!!」 「いや・・・」 俺は静かに首を振った。 「俺は、死んだ。だが・・・水無月浩の心に、起こされた。」 「―――――え?」 俺はそれ以上は無言だった。たぶん、どう説明してもあの感覚は普通の人間にはわからない。自分で動いているはずなのに、他の人間が喋っている。心は一つのような二つのような微妙な感覚。 そっと、心臓の鼓動に耳を澄ます。・・・あのとき・・・皓と結菜に名前も知らない液体をぶっかけられて・・・雪もいないこの世の中に未練などないと思った。だけど、現に・・・雪も、俺も目を覚ましている。 こんなこと、起り得るのか?俺は、・・・。 胸が大きく痛んだ。瞳を閉じても、もう"出所のわからない記憶"は浮かばない。 結局、俺たちがいいとこ取りをしてしまったのか・・・? ぐっと、拳を握り締めた。違う。俺が、目を覚ましたのは・・・"蘇生"の歪を確実なものに変えたのは・・・俺の、俺の心だと――自惚れたい。 雪を求める気持ちが、誰よりも何よりも俺の心を動かす。雪が俺を見つめる。俺は意識こそ無いものの、身体全体でそれを感じ取る――・・・そう、水無月浩が結菜に対して感じていたように。誰よりも、何よりも、雪を。 その綺麗な瞳がもう一度俺を覗き込む。俺はぎゅっと雪を抱き締めた。もう一度、もう一度抱き締めれる瞬間がくるなんて思わなかった。綺麗な髪の毛、優しい香り。俺は右手をそっと雪の左耳に当てた。血が、手につく。 「雪―――――」 俺はさらにぎゅっと抱き締める。こんなにこんなに辛い思いを、痛い思いをさせてしまった。俺が守れなかったばかりに。俺が無力だったばかりに。大切に、何よりも大切にすると――・・・もう二度と傷つけないと、目を開けることがないかもしれないとさえ覚悟した雪が目を開けた瞬間から、思っていたのに。こんなに、こんなに――。 「悠・・・ごめん、ね・・・」 「何で謝る・・・?」 「心配掛けて・・・ごめん――。」 きゅっと、俺の胸の中に顔を埋める。そんな台詞、俺が吐かなければいけないのに。どうして、どうして雪は。 愛しくて、俺の腕の中で・・・折れそうなぐらい小さくて細い雪をさらに抱き締めた。あのとき、本当に――雪のように冷たかった雪は、今は、とても温かかった。鼓動を、感じた。生きている。生きているんだ。こうやって、こうやって抱きしめることが出来るんだ。側に、側に居れる。 愛、して。 「鷹多悠。」 聞き覚えのある声がして、俺は我に返ってそっちの方を見た。雪と抱き合っていた時間は、途方もなく長いように感じたが、絶対時間ではどうやら一瞬のことだったようだ。 声の先には水無月皓がいた。 「皓・・・。」 「本当に、鷹多悠なのか――・・・」 そう呟きながら、俺に近づいてくる。 俺は雪を背中に回し、がっと身構えた。また殺されたりなんかしたら堪ったものじゃない。雪を傷つけさせないだけじゃない。雪を死なさないだけじゃない。俺だってもう死なない。絶対に死なない。―――――雪といたいから。 俺は手元にあった銃を構える。皓は俺をじっと見ると、呟いた。 「額だ。」 一瞬、理解が出来なかった。 「―――――え?」 「額を、狙え。」 「何言って・・・」 「外すな。」 俺の目だけを見て言う。その顔が、途方もなく――・・・途方もなく、情けなく、ちっぽけに見えたのは俺だけだろうか?あの水無月皓だというのに。あの世界を驚異に至らしめた水無月皓だというのに。 「額って・・・お前・・・」 「だから言っているだろう。額を狙え。そして、お前の血を直接掛けろ。そこに、俺の『VAIO』の核があるから。」 俺は銃を構えた。 こいつがどうしてこんなにも死にたがっているのか。―――――答えは簡単だった。 「撃つぞ。」 水無月結菜というたった1人の女のためにここまでやってきたのに、その女を自らの手で殺してしまうほどの錯乱。そして、その後我に返ったとしても―――――生きる目的など、あるわけがない。もし俺だったら、ない。雪のいない世界など、いる意味がない。皓の存在理由は結菜であり、皓の全ては、結菜だったのだ。 パァン、と、俺は静かにその軽い弾を皓の脳に打ち込み、そして先ほど浩がやったように、手の血管から血液を出す。血がいつもよりいつもより・・・ずっと紅く見えて、俺は身震いした。そして立ち上がると、皓の頭からそれをぶっ掛けた。 静かに、けれど確実に、皓の身体が砕けてきた。いや、砕けると言うより――崩れる、と形容すべきか。 皓はニヤリと笑う。いつもの皓の微笑で。 「アメリカ地区に――行くがいい。」 「―――――何だと?」 皓は表情を崩さぬまま、続けた。 「ケリーは、俺の手の者だった・・・けれど、俺の今の気持ちを伝えることなど出来やしない。もう何もかもどうでもいいなどという気持ちは。」 俺はただ皓を見つめた。 「『VAIO』を全て撲滅させない限り、雪だって・・・どうにもならないだろう?」 俺の眉がピクリと動いたのに、おそらく皓は気付いたのだろう。微笑がさらに"笑い"になった。 「俺が死んだあと、3時間後に、この施設は爆発するようになっている。あぁ、安心しろ。原子のレベルまで破壊するほどの強力なものだ。跡は、濁さんよ。・・・この地はもう何百年か不毛の地になる。」 身体が、ほとんど消えていく。それでも、薄い薄い声になっても、皓は続けた。 「アメリカ地区に行け。そして・・・もう俺の手を離れてしまったあいつを、殺してしまえ。」 「皓・・・。」 「可笑しいか?俺がこんなことを言うのは。・・・でも、こんな俺でも、嫌なのさ。結菜以外の人間のものに・・・この地球がなってしまうのは。」 皓は、笑った。 とても、とても、優しく。 「嫌なんだよ。・・・それならば、いっそ、誰のものでもない地球のままで・・・。」 俺の血のせいで、もしかしたら、それは見間違いだったかもしれなかったが。 俺には・・・皓の瞳から・・・涙が落ちたように――見えた。 「頼む―――――。」 それが、あの水無月皓の・・・ 静かな、静かな最期だった。 「行こう。」 雪に俺はそう言った。 「今すぐ行こう。」 雪に手を差し出す。雪は大きく頷いてその手を掴んだ。 「きっと、飛行機なら花が出してくれるわ。」 「花?」 「茶道花。私の弟。お父さんがね、政治の全てを叩き込んで連合政府に置いて来たんだって。暫らくは別の人が総理代理になるか総理になるか――はわかんないけど、たぶん、花が実質上の最大権力者になるから。彼に頼めば、行ける。」 「わかった。」 俺は頷いた。・・・とても、しっかりと。 振り返れば、そこは死体だらけだった。 赤根加乃子、水無月結加、仲藤真也、水無月結菜、茶道好秋、水無月皓。 そして――・・・死体こそないけれど、水無月浩。 俺は身を翻すと、雪に向かってもう一度大きく頷き、手をとり、歩いた。 この手を、もう二度と離さない。想いを、何があっても信じ抜く。雪に悲しい顔はさせない。つらい思いもさせない。傷つけない。 ―――――死なせない。 あの時・・・どうして結菜に揺れていたのかが今ではわからなくなっていた。浩のせいか、それとも俺の中で踏ん切りがついたのかはわからない。それとも、結菜が死んでしまったからか――。自分の気持ちなのに、わからない。 けれど、もう俺は自分の気持ちを疑わない。 俺は、雪を愛している。 誰に何を言われようと、きっと、これからもたった1人のために動き続けるのだろう。 ふ・・・と、笑えた。 俺は、水無月皓に似ているかもしれない。 俺は道を間違えるかもしれない。雪がそう望むのなら。俺も地球を滅ぼそうと願うかもしれない。雪がそう望むのなら。 雪が望むのなら、たとえ神に嫌われようとこの世が滅びようと構わない。 けれども、雪が哀しむのなら、何に代えてもこの地球を守る。全ての人間の幸せすら願う。雪が哀しむのなら、雪が望むのなら。 雪がそこにいるのなら。 雪となら、何処へでもいける。 行こう、海の向こう、アメリカ地区へ。 2人で―――――。 コメント: 2004.10.11.UP☆★☆ はい――・・・。第2部、終了となります。 で、第3部に続きます。 オイオイオイオイ。何処まで続くんだよこの話は!?もう途方もない気もしますけど。 今回の大ボスが皓だとすれば、次のボスはケリーですね。(ゲームかよ) この話を書いてる間に、大切なものを見失いそうになった回が、たくさんありました。 たぶん、その間の文章は・・・かなり欠落したものになってたかと思います。 それでも、それでも読んでくださった皆様、本当にありがとうございます・・・。 第2部最終話の今回、私が一番書きたかったことを思い出して書いたつもりです。 400字詰め原稿用紙800枚強、文庫本にすると600ページ以上。 本当に、読者の皆様がいたからここまで書けました。本当に、本当にありがとうございます。 そして――・・・もうしばらく、悠と雪たちとお付き合い願います。 &よければ、感想お待ちしてます☆一言でも是非どうぞ。 「読んだよ〜!」だけでもとても嬉しいので♪ こちらから☆ &&さらによければ、投票も是非お願いします。 「すべてのDATA」から作者名「悠樹似卯」または「VAIO」(全角英字)で検索して、投票ボタンを押してくださいな。。 楽園様 ←こちらからお願いします。 第3部は、2005年1月よりスタートする予定です。 本当にありがとうございました!!!これからもよろしくお願いします。 悠樹似卯。 |